ライブコンサートで、最上級に良いと感じる席を「神席」と呼ぶことがありますが、ステージに近いだけが“良い席”とは限らない…。そんなお話を、普段はラジオを陰で支えている技術スタッフが、ラジオ番組のなかで解説しました。
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大好きなアーティストのコンサートに行ったとき、できるだけ近くで観たい! と思うのは当然のこと。見事、最前列や花道のあるステージの近くの席を入手できたときの喜びは計り知れません。
先日、大阪城ホールで、とあるロックバンドのコンサートが開催されました。そのロックバンドのコンサートでは、最もチケット料金の高い席がS席、その次がA席となっていました。大阪城ホールではいくつかのステージパターンがあります。今回は、会場を縦長に使い、ステージは西側に配置されるパターンでした。
筆者がスタンド席のステージ正面(大阪城ホールを縦長に使った場合、アーティストとの距離が一番遠くなる席)に着くと、周りのお客さんから「S席なのに遠いね…」「これほんとにS席なの??」と残念がる声が聞こえました。S席の設定なのにアーティストからは最も遠い場所であるため、残念と思う人が多かったのです。
そのロックバンドのコンサートでは、電子チケットシステムを採用。席順は本番の数日前にしかわからず、公開されると、ネット上でも「S席なのに遠い!」と不満の声が上がりました。
しかし、そのステージ対面の席は、まぎれもなくS席、つまり「良席」であると考えられます。なぜなら、最もバランスの良い音でコンサートを楽しめる場所とも言えたからです。
そのコンサートでは、音響・照明などを操作するブースが、ステージ正面のアリーナ最後尾に設置されていました。不満の声が上がっていたステージ正面スタンド席は、音響・照明ブースの後ろ側。音楽コンサートの場合、音響・PAエンジニアは、できるだけ会場全体の音のバランスが良くなるよう、スピーカーの設営も含めて調整しますが、そのためには対面の後列側でミキシングを行うことが多く、エンジニアのいる場所付近こそ“最も良い音”が聴こえると言えるのです。
最近の大規模コンサートで主流の「ラインアレイスピーカー」は、複数のスピーカーユニットを垂直方向に配列します。明瞭で均一な音を、通常のスピーカーよりも遠くまで、さらには減衰させずに届けることができます。ステージにあまりに近い席には、それらメインスピーカーの音は届きにくいため、別のスピーカーを設置してフォローする場合もあります。
【放送音声】2022年7月31日放送回