寒い冬といえば、気軽に作れて身体が温まる鍋料理が恋しくなりますよね。昆布だしのシンプルな水炊きや、専門店のもつ鍋、それに最近では各食品メーカーがこぞってさまざまな味の鍋スープをリリースしており、ひと冬では味わいきれないほど。
とはいえ「もっと違うテイストの鍋が食べてみたい!」という人もいるはず。そこで今回は奈良県に伝わる『飛鳥鍋』を紹介します。
飛鳥鍋は、奈良県・明日香村で生まれたとされています。「鶏肉と牛乳」が使われていて、この組み合わせだけ聞くとなんとなくシチューを想起してしまいますが、いったいどんな鍋なのでしょうか? 雑貨販売や料理提供をするお店『ひもろぎ』(奈良県高市郡明日香村)を営む、西川直子さんに話を聞いてみました。
明日香村は、奈良県の中央部に位置し、その名の通り「飛鳥時代」の由来となっている場所です。「キトラ古墳」をはじめ「石舞台」や「酒船石」「飛鳥寺」など、国内でも類いまれな歴史的価値の高い遺跡・古墳、神社が数多く残っています。
西川さんによると、飛鳥鍋の誕生の裏には当時の時代背景が深く関わっているのだとか。
「飛鳥時代、遣唐使(唐からやってきた使者)が持ってきた『牛乳』がキーになったという説があります。書物によると、この牛乳を孝徳天皇へ献上したところ大変喜ばれたそうです。当時の牛乳はとても貴重とされ、皇族や貴族しか口にできない高貴な飲み物でした。その後、徐々に牛乳が僧侶にも飲まれるようになると鶏肉を牛乳で煮て食べる料理が生まれ、これが飛鳥鍋の原形とも。栄養たっぷりのこの料理を食しながら、僧侶たちは厳しい修行に励んでいたそうです」(西川さん)
また、僧侶の世界でもやはり牛乳は高価だったため、飼っていたヤギの乳を使っていたという説もあるとのこと。
「実際に村のお年寄りに聞くと、ヤギ乳に鶏肉としょうゆ、砂糖を入れ煮込んで食べていた……と話す方もいらっしゃいますね」(西川さん)