九州の駐車場でしばしば見られる「圣」という文字。普段なかなか見かけることがない文字だけに、他地方の人間は「?」となってしまうかも。
九州のなかでもとりわけ熊本県で多い「圣」表記、実はまだまだ詳しいことは判明していないのだそう。そこで、熊本大学の教授で「圣」についてリサーチを重ねてきた茂木俊伸氏に話を聞きました。
2014年4月に熊本大学に着任した茂木教授は、同年の8月に熊本駅前の駐車場で最初の「圣」を記録します。以前より、看板や貼り紙の面白い日本語表現を見かけるとすかさずメモして授業の教材として使っていた茂木教授、「圣」もそのひとつだったといいます。ですが、その後熊本県のあちらこちらで「圣」表記があることに気付き、収集を開始します。
「『圣』は中国語で『聖』の簡体字として使われている漢字です。ただし、熊本の駐車場で見られる『圣』はそれと別で、軽自動車の『軽』の車偏(くるまへん)を省略したものだと考えられます。ただし文献上『軽』の略字として『圣』が使われている例は見つかっていないそうです。このため『軽』に由来する『圣』は駐車場だけで見られる、かなり独特な略字なのです」(茂木教授)
「軽」が簡略化される理由は「画数が少なく済むから」というものが考えられるようです。駐車場にラインを引く場合「軽」よりも「圣」の方がスペースが小さくて済み、作業時間や費用の節約にもなるのだとか。
「Googleマップの航空写真では『圣』表記は九州全県で確認できます。九州以外だと山口県、そして千葉県では九州資本のファミリーレストランの駐車場で見ることができると教えてもらいました」(茂木教授)
さらに、アルファベットの「K」や「圣」が四角形で囲まれたものなど、変わりダネもあるそう。
茂木教授が2022年12月に航空写真で調べた時点では、熊本駅周辺から1平方キロメートルあたり、12.5個の「圣」が見つかっています。他県との比較データはまだ無いそうですが、それにしてもなぜ熊本県に集中しているのでしょうか?
「熊本県でよく見られる理由は、今のところよく分かっていません。地元紙の取材によると、業界の方から『少なくとも40年以上前から使われていた』という証言は得られたものの、詳しい経緯は分からないようです」(茂木教授)
茂木教授いわく「近頃では街の再開発や駐車場のラインの引き直しで消えていく『圣』もあり、ちょっぴり悲しい思いをしています……」とのことでした。
☆☆☆☆
いつか消滅してしまうかもしれない「圣」のほかにも、日本各地にはご当地ならではの“ナゾ文字・ナゾ表記”がまだまだ存在しているのかも知れません。気になる人は調べてみては?
(取材・文=つちだ四郎)
◆熊本大学・茂木俊伸教授
茂木教授のホームページ