JR・山陽電車「明石駅」から北へ徒歩5分。明石海峡を望む高台に位置し、明石の歴史と文化を紹介している明石市立博物館では現在、企画展『柿本人麿と明石 -歌・信仰・文化-』を開催している。企画展は7月2日(日)まで。
柿本人麿(かきのもとのひとまろ:名は「人麻呂」とも表記される)は奈良時代に活躍した宮廷歌人。万葉集では、皇族をたたえる歌や死を悼む歌などを数多く詠んだことで知られるが、明石にまつわる歌も残している。
たとえば、「灯火の 明石大門に 入らむ日や 漕ぎ別れなむ 家のあたり見ず」という歌では、住み慣れた都市を離れ行くなか船で明石を通過した際に見た、家がだんだんと遠ざかっていく様子を歌っているという。
明石市市民生活局文化・スポーツ室歴史文化財係の濵室かの子さんは「明石、特に明石海峡は、7世紀には都と地方との境界地点として認識されていました。そのため、旅の道中の心情を詠んだ歌などには明石の地名が出てきます」と話す。
明石市内には人麿ゆかりの地も多く存在し、なかでも代表的なのは明石市立天文科学館に隣接する月照寺(げっしょうじ)と柿本神社(かきのもとじんじゃ)だ。
月照寺には、人麿が持統天皇から贈られたと伝わる念持仏(ねんじぶつ)「海上波切船乗十一面観世音菩薩」が奉祀されている。
柿本神社で祀られている人麿神には、火難・水難・学問・安産・眼病などにご利益があるとされ、今もなお、一年を通して多くの参拝客でにぎわっている。
企画展『柿本人麿と明石 -歌・信仰・文化-』では、月照寺と柿本神社に伝わる資料を中心に、人麿が詠んだ歌、縁のある明石藩主や冷泉家から奉納された歌のほかに、没後千年といわれる1723(享保8)年に盛大に行われた人麿千年忌にまつわる資料など、人麿信仰の記録を一堂に展示。明石の文化にも大きな影響を与えたことが分かる、人麿をモチーフとした絵画や焼きものなども見ることができる。さらに、通常は60年に一度のみ開扉される月照寺の秘仏「海上波切船乗十一面観世音菩薩」が特別公開されている。