神戸市北区の路上で2010年10月、堤将太さん(当時16歳・高校2年)が殺害された事件で、殺人罪に問われた元少年(30・事件当時17歳 記事上は「男」と表記)の裁判員裁判・第3回公判が9日、神戸地裁で開かれた。
この日は、男の起訴後に弁護側の求めで精神鑑定を担当した医師が出廷し、「精神障害はなく、誇張や虚言が見受けられる。統合失調症を装った『詐病』の可能性が極めて高い」との見解を述べた。根拠として、詐病の具体的特徴10項目のうち、8項目で該当したという。
男をめぐる精神鑑定は、検察側が起訴前の2021年8月~2022年1月に、弁護側が起訴後の2022年9月~2023年1月に実施、いずれも責任能力があるとの結果が出ている。
男は「(将太さんに対する)殺意はなかった」として、起訴状の内容を否認しており、弁護側は、統合失調症など精神障害を理由に善悪の判断が著しく低下する「心神耗弱」状態だったとして刑の減軽を求めている。主な争点は男の責任能力の程度と殺意の有無で、判決は23日の予定。
男は8日の被告人質問で、事件について「異常なことをした」と述べる一方、「不良のような若い男性に反感を持っていた。(将太さんを見かけて)自分に危害を加えようとすると思い、追い払おうとしてナイフで刺したが、殺そうという気はなかった」と釈明している。
男は2009年、青森県の高校在学中に交際していた女性をめぐり、クラスメートとトラブルになり退学した。そして事件を起こすことになる翌2010年に神戸市内の祖母宅(当時)に身を寄せていた。
鑑定医は「高校退学や失恋で、(交際していた)女性に憎しみや怒りを抱き、その矛先が夜遅くに出歩く若い男女に向けられた。将太さんと、退学の理由となったクラスメートの姿が重なり、(将太さんを)襲った」と分析したという。
そして、「逮捕前は、社会生活を送るうえで問題なかったが、元来、一定の暴力性、爆発性があった。(この事件は)一見すると、動機が不可解で突発的に見えるが、そこに至るまでの生活状況や心理状況を見れば、すべてに了解可能だ(理解できる)」と説明した。
さらに、殺意について男は、逮捕直後に「殺人事件を起こしました」という供述だったのが、起訴後の精神鑑定時以降は明確に否定するなど変遷しており、「男は幻想や妄想という言葉を進んで述べるようになり、それらを印象付けようとした」と述べた。
将太さんの父親・敏さんは、約700ページにわたる事件資料の写しを読み込み、家族とともに被害者参加制度に基づいて公判に臨んでいる。公判が始まる前から抱いていた被告の男の印象とほぼ変わらないことが確認できたという。
敏さんは閉廷後の会見で「鑑定医の説明はわかりやすかった。被告には精神障害がなく、自分で新たに作り出したストーリーをあてはめて公判で噓を重ねていることが証明されたのではないか。遺族の立場で、男の精神状態などを証明する方法はない。だから、鑑定医の証言は非常に貴重だった。この証言を裁判官と裁判員がどう判断するかだと思う」と話した。
同席した遺族代理人・河瀬真弁護士は「鑑定医が被告の状況を“詐病”と証言するケースは珍しい。被告が妄想や幻聴という言葉を使うことで、自分に有利に働くという発想に至ったのだろうが、詐病だからこそ言えたのかも知れない。被告に真実を話してもらうための被害者参加制度で、被告から真実が語られていないことが、むしろ残念だ」と感想を延べた。