植物食恐竜は、身を守るためトゲや鎧、こん棒などを進化させた。そんな植物食恐竜に対し、肉食恐竜は爪や歯を進化させた。恐竜たちの「攻・守」という観点から恐竜の進化に迫る「恐竜博2023」が、大阪市立自然史博物館・ネイチャーホールで開催されている。2023年9月24日(日)まで。
会場に足を踏み入れるとその迫力に圧倒される。キーワードは恐竜たちの「攻・守」。復元された2体の全身骨格がまさにその場面を再現している。トゲトゲしたからだを持つ植物食恐竜・ズール・クルリヴァスタトルと、襲い掛かろうとする肉食恐竜・ゴルゴサウルス。ズールは尾の先にあるこん棒を振り回して反撃しようとしている。このこん棒の動きは「影」で表現されている。後期白亜紀にはこんな光景が繰り広げられていたのではと想像される。
アンキロサウルス類の「ズール」は、肉食恐竜から身を守るためのトゲトゲした骨質のうろこ、肉食恐竜の骨を破壊するほどの力を持つこん棒を持っている。クルリヴァスタトルの「クルリ」はラテン語で脛(すね)、「ヴァスタトル」は破壊者を意味し、長さ3メートルの尾の先にある重さ推定7キロのこん棒を振りまわすと、ティラノサウルス類のゴルゴサウルスの脛も破壊する力があると考えられている。
ズールは、2014年、アメリカ・モンタナ州で、頭から尾のこん棒までつながった状態で見つかった。これまでバラバラで見つかることはあったが、つながった状態で見つかったのはアンキロサウルス類では初めてで、本展を監修した国立科学博物館の真鍋真副館長は「今後教科書に載ってもいいほどの発見」だと話す。胴体の部分の突起は、よく見ると縦に筋が入っている。これは皮膚の跡。大阪市立自然史博物館の田中嘉寛学芸員によると、こん棒と胴体をつなぐ腱は「驚異的な保存状態で」骨化して残っている。また頭部(実物化石)は目の下にトゲがある。歯はない。口の中を見ると、えぐれたような形になっている。これは「現代のセイウチに似ている」(田中学芸員)といい、「植物などを吸って食べていたのかもしれない」。
ティラノサウルス「タイソン」は、全身を構成する約300個の骨のうち、177個もの実物化石が見つかっている。展示されているのは頭部の一部や前あしの上腕骨など発見された化石の一部を含む全身組立骨格で、一般公開されるのは本展が世界初だ。6600万年前のものとは思えないほどで、骨表面の細かい所まで観察することができる。例えば上腕骨に咬まれたような跡があり、「タイソンよりも小さいティラノサウルスによってつけられた可能性がある」という。生態系の頂点に立っていたティラノサウルス類でも、ケガや病気になることがあったことがうかがえる。
そしてもう一つ世界初公開が!2020年にアルゼンチンで発掘され、2022年に新種として命名された肉食恐竜マイプ・マクロソラックス。この発掘には真鍋氏も参加した。展示されているのは胴体の化石のみだが、「まだ胴体しか出ていない。これからの研究が待たれる」恐竜だ。推定全長は10メートル、メガラプトル類の中で最大級で、白亜紀最末期の種と考えられる。北半球の王者・ティラノサウルス類に対し、南半球ではメガラプトル類が頂点にいた可能性が高くなったという。