神戸の舞台芸術の拠点「神戸文化ホール」(神戸市中央区)は今年、開館50周年を迎えた。半世紀を記念し、同ホールでは2023年~2025年、音楽、舞踊、演劇などの多彩なスペシャルプログラムを展開。目玉の一つとして10月21日(土)、神戸出身のダンサー、岡登志子さんが振り付けた舞踊作品「緑のテーブル2017」を上演する。本番を前に、作品にまつわるお話や公演への思いなどを岡さんに聞いた。
オリジナルの「緑のテーブル」は、ドイツの舞踊家・振付師のクルト・ヨース(1901~1979年)が中世の絵画「死の舞踏」から着想、制作した。同作は1932年、パリで開かれた振付コンクールで最優秀作となり、以来、現代舞踊の「古典」として世界各地で再演されてきた。
テーブルを囲み、激しく言い争う政治家たち。やがて場面は戦場に変わる―。戦場や難民などが描かれた同作には、当時のナチス台頭を否定するメッセージが織り込まれており、「反戦バレエ」とも呼ばれてきた。
振付家としても活躍する岡さんは、2017年、原作から得たインスピレーションを基に「緑のテーブル 2017」を創作。原作の振り付けや音楽は使わず、構成を参考に新たな解釈を加え、作り上げた。
岡作品には、オリジナルにない役「風」が登場する。「風」は時代が変化しても変わらず吹き続ける、作品全体を俯瞰するような役どころ。今回、神戸を本拠地とするバレエカンパニー「貞松・浜田バレエ団」代表、貞松融さんと国際的舞踊家、中村恩恵さんの2人が同役を務める。
貞松さんのキャスティングを思い付いたのは、岡さんだった。今年91歳の貞松さんが終戦を迎えたのは13歳。戦争に負けてそれまでの価値観が一転、何を信じて良いか分からない中で「芸術は人を裏切らない」と確信、バレエ界に飛び込んだ経歴を持つ。今春開かれた、神戸文化ホール50周年記念事業の会見で、貞松さんは「(同ホールは)戦争で丸焼けになり、文化不毛の地だった神戸に『芸術の場が必要』と、愛を込めて建てられた」と述懐。
岡さんは「貞松さんの存在そのものが『風』にふさわしい。そこにいてくださるだけで、平和の尊さを体現する踊りになる」と話す。