全国の天満宮の総本社・北野天満宮(京都市上京区)で、江戸時代に天皇や上皇などから奉納された和歌の短冊630枚が見つかった。
短冊は、本殿内陣の奥(内々陣)で木箱10箱に収められており、専門家が2021年から調査していた。
調査は京都大学の藤井譲治名誉教授(日本近世史)と、長谷川千尋教授(日本中世文学)によるもの。その結果、短冊は宮中の伝統行事「古今伝授」(現在は途絶えている)後に奉納されたものだったことがわかり、2023年9月に発表した。両者は『北野天満宮 聖廟法楽和歌集』を刊行した。
“聖廟”とは北野天満宮を指し、“法楽”とは天神に詩歌や芸能を奉納することをいう。
「古今伝授」とは、平安時代前期の勅撰和歌集「古今和歌集」の解釈を師匠から弟子へ秘伝として伝承すること。室町時代に始まったとみられる。天皇や上皇が詠んだもので、北野天満宮では“秘事”とされてきた。古典一般の秘伝の伝授を指すこともある。
藤井名誉教授によると、中世以降、宮中では毎月25日(道真の月命日)に歌会をする風習があり、極めて重要視されていたという。
江戸時代、北野天満宮に奉納された和歌の短冊は、古今伝授にちなんだものが7回、ほかに桜町天皇や霊元天皇が奉納したものもあった。いずれ直筆で、当時のまま保管され、保存状態も極めて良好だった。