熊本弁といえば「ばってん」や「さしより」「もっこす」など印象的な方言が多く、それらの言葉がそのまま商品名に使用されることもしばしば。
独特な響きが魅力的な熊本弁ですが、なかでも特に有名な「あとぜき」をご存知でしょうか? この言葉は熊本県民からとても重宝されており、かの有名なゆるキャラ『くまモン』がSNSで発信するほど。
熊本県民以外の人は、一体どのような意味を指すのかまったく想像ができない「あとぜき」。はたしてどういった意味なのでしょうか。熊本県立大学の文学部日本語日本文学科で、言語学を研究する小川晋史准教授に話を聞きました。
「あとぜき」は会話で使うのはもちろん、県内の会社や学校の扉やドアに貼られている注意書きでもよく見かけます。例えば「あとぜきをお願いします」という丁寧な言い回しから、シンプルに「あとぜき」とだけ書かれたものなどさまざま。いずれにせよ「あとぜき」だけでひとつの意味を成しているということがわかります。
「あとぜきは『後を堰く(あとをせく)』という言葉の「あと」に「せき」が濁った「ぜき」が結合した言葉。要するに“後ろを塞ぐ”というイメージでしょうか。漢字での表記が難しいため平仮名で書くのが定番だと思われますが、アルファベットで書かれた張り紙も見たことがあります」と小川准教授。堰とは、水の流れをとめたり調節したりするためにつくる「しきり」のこと。つまり「後ろに堰を作る」というニュアンスが「後ろを塞ぐ」という意味に転じたようです。
「直訳すると『後ろにあるものを閉める』ということを指します。基本的に名詞形で使用されますが、『ドアを閉める』『扉を閉めなさい』などの意味でも通じます」(小川准教授)
方言の中には若者が中心となって使うものもあり、時が経つとともに廃れてしまうものもあります。しかし「あとぜき」に関してはあまりに有名な言葉ということで、どの世代からも使われている言葉なのだとか。
熊本でのみ浸透している「あとぜき」。小川准教授いわく、なぜこの言葉が生まれ県下で広く使われているのか、その理由についてははっきりとしていないそうです。
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暖房や冷房の空気を逃したくない時期や家族や同僚に冷蔵庫や戸棚の開けっ放しを注意したいときなど、日常で「あとぜき」が活躍しそうなタイミングは多々あります。熊本県民でなくとも積極的に使っていきたいフレーズかもしれません。
(取材・文=つちだ四郎)
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