神戸・長田区には、地元住民なら誰もが知っている“ソウルドリンク”があるといいます。その黄色い清涼飲料水の名前は「アップル」。ただし、りんご味でもなければ、果汁が入っているわけでもありません。謎のドリンクの正体について、1952年創業の清涼飲料メーカーでアップルを製造する兵庫鉱泉所の2代目代表、秋田健次さんに聞きました。
アップルは黄色い無果汁の清涼飲料水です。ほんのりとした酸味が特徴で、一般的には“みかん水”と呼ばれるドリンクにあたるといい、その風味はりんごではなくみかんです。関西人のあいだでは、「なぜみかん味なのにりんごなのか?」と話題にのぼることもある、謎の多いドリンクとして知られています。
秋田さんによると、このチグハグなネーミングの理由はメーカーでも不明だといいます。商品名は秋田さんの父親である創業者が決めたもの。秋田さんは、亡くなった父親にこの理由を確認することができず、今では「大阪で修行した父が、おしゃれな神戸の風土に合わせてカタカナにこだわり、酸味料のリンゴ酸から取った名前なのかもしれない」と推測しているそうです。
アップルが“長田のソウルドリンク”とまで言われる理由は、そのおいしさだけでなく、販売エリアを長田区の近隣のみに限定しているから。実は、アップルが入ったビンは回収して再利用することが前提になっています。そのほとんどを、秋田さんたち兵庫鉱泉所のスタッフが直接、店に卸し、飲み終えたビンも直接回収しに行くというシステムにこだわって販売されてきました。
このシステムについて、秋田さんは「販売する範囲を広げて(ほしい)と言う声もあるし、そうすればもっと売れるけれど、それではビンの回収ができない。たくさん飲んでもらって、ビンを何度も使って初めて成り立つ商売だから、細く長くやってきたんです」と語ります。そのためアップルは、現在も長田周辺のお好み焼き店や銭湯などを中心に販売しているそうです。
ことし9月には、炭酸入りの新商品「アップルサイダー」が発売されました。もともとアップルファンの間でツウな飲み方として知られていた“アップルの炭酸割り”が、そのままドリンクになったものだといいます。現在66歳の秋田さんは、「もうそんなに長いことやって行こうとも思ってないし、いっぱい売れてほしいって感じでもないけど、(お客さんが)あんまり(にも)言ってくれるからね」と、どこかしらうれしそうでした。
※ラジオ関西『Clip火曜日』より