春になると全国各地で祭りやお花見が開かれるなど、日本人にとって馴染み深い「桜」。近所の公園でも見ることができる身近な植物ですが、実は「毒」があることを知っていましたか? 桜が持つ毒について、一般社団法人 和ハーブ協会の代表理事であり、医学博士の古谷暢基さんに話を聞きました。
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古谷さんによると、昔から「桜の木の近くには背の高い雑草が生えない」とまことしやかに言われているそう。その理由にとは、桜の持つ成分が関係しているのだとか。
「桜の葉や花びらには『クマリン』という物質が含まれており、これは“生物毒”の一種。これにより桜の木の周辺には雑草が生えにくくなっているのです」(古谷さん)
しかし、葉や花(花弁も含む)が木で茂ったり咲いたりしている状況下では、クマリンは糖と結合している状態(配糖体)のため、毒性はないそう。葉・花が地面に落ちると、クマリンは酵素による加水分解によってブドウ糖から切り離され、毒性を持つようになります。「地面にまき散らされたクマリンは、親木の周りに雑草や有害な生物が繁殖できないようにする役割を果たしています。ちなみに、クマリンは殺鼠剤に使われることもあります」と古谷さん。
では、桜餅の葉や料理に使われるヤエザクラの花の塩漬けは先述の通りに解釈すれば“単体状態”ですが、食べても大丈夫なのでしょうか?
「クマリンは大量に食べれば肝毒性がありますが、桜餅に巻かれた葉っぱ1~2枚程度であれば害はなく、むしろ抗酸化作用も期待できます。クマリンは雑草などが生えないようにする毒の役割を担う一方で、桜の香りの成分でもあります。塩漬けすることで細胞が壊れ、桜の香りを楽しむことができるのです」(古谷さん)
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「きれいな花には棘がある」ということわざよろしく、可愛らしい姿のをしながら毒を持っていた桜。しかし、その裏には桜なりの生存戦略が隠されていたのでした。
(取材・文=迫田ヒロミ)