明石市立文化博物館(兵庫県明石市)では5月19日(日)まで、春季特別展「エルマーのぼうけん展」を開催している。展示について分かりやすくひもとく解説シリーズ、リモート・ミュージアム・トークの今回の担当は、同館の北野恭子学芸員。児童文学の世界的名作を特集した、同展の見どころなどについて教えてもらう。
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「りゅうのからだはきいろとそらいろのしまもよう。それからまっかなつのと目があって、りっぱなながいしっぽがついていました。そしてほんのりとあかるい月の光にてらされてかがやいている金いろのはねはとくべつ、きれいにみえました。」(福音館書店『エルマーとりゅう』より抜粋)
物語は覚えていなくとも、この色鮮やかなりゅうの姿は目に浮かぶ方も多いのではないでしょうか? 9歳の少年エルマーが、誰も傷つけることなく知恵を絞り、機転を利かせてりゅうの子を助ける物語、『エルマーのぼうけん』。『エルマーとりゅう』『エルマーと16匹のりゅう』を合わせたシリーズ3部作は、1948年から1951年にかけてアメリカで出版され、半世紀以上たった今でも世界中で愛されています。日本でも、1963年に日本語版が出版されて以来、発行部数770万部を超え、現在に至るまで人気の児童書として不動の地位を誇っています。
現在、明石市立文化博物館では、日本語版出版から60周年を記念して、日本初公開の約130点の挿絵原画と、物語が描かれた背景がうかがえる約100点の写真や資料を展示した「エルマーのぼうけん展」を、東京に続いて開催しています。
この展覧会の見どころの一つは、その美しい原画の数々です。鉛筆で描かれたとは思えない、繊細で今にも動き出しそうな奥行きのある原画は、挿絵を担当した作者ガネット氏の義理の母、ルース・C・ガネット氏によるものです。原画の下には、物語の一部分が抜粋されて書かれていますので、物語の内容を知らない人も、絵本をめくるかのように世界観をたどっていただける仕掛けになっています。実は、日本語版では原画が反転して掲載されているものもありますので、本を手に、一点一点原画と照らし合わせてみるのも面白いかもしれません。
作者ガネット氏は、この物語の挿絵を義理の母にお願いするにあたり、「勇ましく強そうなりゅうではなく、子どもが思わず助けてあげたくなるようなかわいいりゅう」のイメージを自らの絵と、手作りしたりゅうのぬいぐるみで伝えました。また、作者ガネット氏の原稿を基に、家族総出で挿絵の位置や文字の出方を何度も試作本で確かめながら、文章と挿絵を呼応させていきました。本展では、これらの資料も展示していますので、原画と共に、ぜひ物語ができあがる過程にも思いを巡らせながら、ご覧ください。
さて、この展覧会のもう一つの見どころは、まるで物語の世界に入り込んだかのように、エルマーが乗り越えた数々の冒険を体験できる展示です。第1会場では嵐を抜け、桟橋を通り、不気味な動物たちの声が響くジャングルを抜けていくと、そこにワニが! エルマーのように、ワニの背中をジャンプすると、どこからかワニのうなり声が聞こえてきます。
そして原画さながらに、りゅうの子ボリスとのお別れのハグをし、ぼうけんを終え、強く成長したエルマーがたどった線路を歩くことができます。