ある日、落語を見に行ったところ、落語家さんの目の前に“木の桶”が置いてあったんです。「これはなんやろか!?」と思いながら、落語会終了後に主催者の方に尋ねてみました。
「ああ、あれは味噌ですね」
「……味噌!?」
聞くと、主催者さんは日本料理屋さんを経営しているのだそう。よく耳にする「ワインにモーツァルトなどのクラシック音楽を聴かせるとおいしくなる」という話から、「料理に使用する味噌に、自分のすごく好きな落語を聞かせたらおいしくなるんちゃうか!?」とひらめき。その発想から、落語家さんに断りを入れ、実験的に高座の前に味噌の入った桶を置かせてもらうことにしたのだとか。
もうすでに4年ほど、落語会があるたびに置かせてもらっているそうなのですが、「やはり、味噌がおいしくなっている」とのこと。モニターとして、いろいろな方に食べてもらったそうで、「おいしい」「まろやかになった」「うまみが増している」などのコメントが続々。
落語を聞いたからか、はたまた笑い声が作用したのかはわかりませんが、確かに、「笑うと免疫力が上がる」という話を聞いたことがあります。これは人間の話ではありますが、味噌のなかにいる微生物も同じように、会場の笑い声が放つポジティブな“気”のようなものに包まれて良い変化をもたらしたのかもしれません。
主催者さんが、おいしくなった理由を調べるべく食品の成分分析を依頼してみたところ、「落語を聞かせた味噌のほうが、なかにいる酵母の数が明らかに増えている」という結果が。「とはいえ、それ(酵母の数の増加)がおいしさにつながっているかどうかは、まだまだ調べてみないとわからないのですが」と、説明してくださいました。
もしも、“笑い”によって味噌がおいしくなるんやったら、お笑いの現場に味噌を置いて仕込めば、お笑いのジャンルごとにさまざまなブランド味噌が生まれるのでは……?