日本人が一生のうちに診断を受ける確率が高い病、「がん」。今年6月に保険適用が拡大されるなど今注目を浴びているのが、切らないがん治療の一つ「陽子線治療」です。神戸ポートアイランドにある兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター(神戸市中央区)のセンター長・徳丸直郎さんに、同治療のメリットや課題などについて聞きました。
県立粒子線医療センターは、2001年に日本で二番目に開設された粒子線治療施設です。神戸陽子線センターは、2017年に開設されました。
「陽子線」は粒子線の仲間です。「粒子線」とは、高エネルギーの粒子(原子を構成している“電子”や“原子核”)の流れの総称で、一般的に知られる「X線」や「ガンマ線(γ線)」と並んで放射線の一種に数えられます。粒子線のうち、特に“水素原子核”の流れを陽子線と呼びます。
照射することでがん細胞にダメージを与える粒子線治療は、現在がん治療の三本柱とされている《1》手術《2》薬物(抗がん剤)治療《3》放射線治療の《3》にあたります。
現在粒子線治療に使われているのは「陽子線」と「炭素イオン線」(炭素原子核の流れ)の2種類です。陽子線を用いた治療のメリットについて、徳丸さんは「一般的に知られる『X線』や『ガンマ線(γ線)』に比べて患部にエネルギーを集めやすいため、周りの正常な臓器にあまりダメージを出さずに治療が行えます」と話し、従来の放射線治療よりも副作用が軽いことを説明しました。
ただ、がんによって向き・不向きがあるそうで、「不規則な動きをする胃がん、大腸がんなどは陽子線治療には向いていません。逆に、男性がなるがんとしては日本で最多の前立腺がんは向いていると言えます」(徳丸さん)。そして、今年の6月からは保険適用範囲が拡大し、同治療の効果が認められた肺がんなども対象になったと話しました。
陽子線治療は子どもにも行えます。殊に子どものがんに関しては、治療後の影響を少しでも減らしたいという観点から「かなり前から保険適用されています」と、徳丸さんは伝えました。
研究が進む陽子線治療。今後の課題について徳丸さんは「切らずに陽子線で治療をしてほしいという問い合わせも多いのですが、適するもの・適しないものがあるといった認識が、医師の中でも細部にまで至っていないケースもあります」と話し、医療界での認知拡大も必要という認識を示しました。
陽子線治療含む粒子線治療は、まだ広く知られていないと言えます。そこで同センターでは、より多くの人に理解を深めてもらう機会を提供しようと、6月29日(土)にアクリエ姫路(兵庫県姫路市)で粒子線治療に関する講演会を予定しています。午前10時30分からで入場無料、事前申し込み不要です。詳しくは兵庫県立粒子線医療センターの公式ホームページに掲載されています。
【参考資料】
・兵庫県立粒子線医療センター 公式ホームページ
・国立研究開発法人国立がん研究センター「最新がん統計」
・公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計2022」
※ラジオ関西『谷五郎の笑って暮らそう』より