美しい形状で古来、人々の心を捉え続けてきた貝。そんな貝の“沼”にはまり込んで抜けられなくなってしまった人々の足跡をたどる展覧会「貝に沼る―日本の貝類学研究300年史―」が大阪市立自然史博物館(大阪市東住吉区)で開かれている。江戸時代から現代までのアマチュア収集家やプロの研究者による最先端の研究、図鑑に載った標本、骨董品、採集道具まで膨大な資料が並ぶ会場には、貝に注がれた熱いエネルギーが満ちる。5月6日(火・振休)まで。

日本列島は暖流と寒流の影響を受ける位置にあり、島もたくさんあることから、世界的に見ても多様な貝類が生息する地域。世界各地に生息する名前の付いた貝約9万種のうち、日本と周辺には8千種ほどが生息しているという。同展を担当した石田惣学芸員(無脊椎動物)は、「多くの日本人が貝に興味を持ってきた背景には、日本が貝の多様性に富んだ地域であるから」と指摘する。

展示はおおむね時系列で進む5章構成。まず目を引くのは、第1章の「木村蒹葭堂(きむら・けんかどう)貝類標本」だ。近世大坂の町人学者・木村蒹葭堂(1736~1802年)のものとみられる標本だが、貝をあしらった豪華な重箱に貝が整然と納められたさまは、まるで宝石箱のよう。貝類約400種のうち、ほとんどが日本と周辺海域の種だが、1種だけヨーロッパ北大西洋のものが交じっているという。



初公開品もある。大正時代の木版画による貝類図鑑「貝千種(かいちぐさ)」は、明治から大正にかけて貝類標本商を営んでいた平瀬與一郎(ひらせ・よいちろう、1859~1925年)が企画・発刊していたもの。このたび初めて原画と版木が一般公開された。版木には多色刷りを行ったことが分かる色の痕跡が残り、洋画家の手で細密に描かれた原画は、実物の美しさを忠実に伝えつつ、大和絵を思わせる独特の味わいも持つ。平瀬は日本の貝を海外の研究者に販売、新種として記載させたり、貝の博物館を開くなどして近代貝類学に大きく貢献したが、短期間で事業が立ち行かなくなり、志半ばで病没した。

