多様な食文化を持つ中国では「出された料理は少し残すのが礼儀」という伝統的なマナーが存在します。ところが近年、この礼儀に変化が生まれつつあるのだとか。中国語教室「イーチャイナアカデミー」(本社:愛知県名古屋市)に詳しく教えてもらいました。

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そもそも「食事を残す」という中国独自のマナーにはどういった意味があるのでしょうか。
「特に年長者や上司が主催する食事の席では、料理少し残すことで『主人が料理を十分に用意しており、もてなしが行き届いている』ということを示します。全て食べきってしまうと『準備ともてなしが不十分』という意味を持ってしまうのです」(イーチャイナアカデミー)
家庭や学校であえて「少し残すこと」をマナーとして教わることはないそうですが、残したとしても特に気にされないのだとか。もちろん各家庭によって事情は異なりますが、外食や宴会など招かれた際はやはり食べ残すことが多いそうです。
この習慣に変化が生まれたのは、2013年1月のこと。公益活動に熱心なとある活動家が「光盤行動(こうばんこうどう)」と呼びかけたことがきっかけでした。日本語に訳すと“完食運動”を意味するこの呼びかけは、中国で広く使われているSNS「微博(ウェイボ)」での発信を皮切りに首都・北京から全国のメディアへと広がりを見せます。さらには飲食店や教育機関・全国人民代表大会・国際メディア・国連など様々な機関がこの運動に賛同と支援をするまでに発展。
「光盤行動の主旨は、『レストランでは注文しすぎない』『食堂では盛りすぎない』『家庭では作りすぎない』というものです。目的はあくまで日常生活の中で食べ物を大切にすること。大事なのは節約を実践し無駄をなくす習慣を身につけることで、一時的なキャンペーンではありません。外食時には本当に必要な分だけ注文し、家庭でも必要な分だけを作るという姿勢が求められています」(イーチャイナアカデミー)

この取り組みは実を結び、多くの中国人が「ご飯を残す=環境に優しくない」と考えるようになり、特に公共の場でその意識が強くなっていきます。特に若者世代は意図的に食べ残すのではなく「お腹いっぱい」と言葉で伝えることで、満足を表現するようになりました。
2021年には「反食品浪費法」という法律が施行されます。別名「食品ロス防止法」とも呼ばれ、飲食店で過剰な食べ残しがあった場合店側が客に対して罰金を請求できたり大食いを客に促した飲食店側に罰金を課したりと、店も客も取り締まる内容となっています。
これ以降、中国ではより「食べ残し」を避ける傾向が強くなっていきます。フードデリバリーのプラットフォームに「適量注文」を促すメッセージが表示されたり、ビュッフェでは「過剰に食べ残した場合は罰金」という警告文が提示されるなど飲食店側の姿勢にも変化が生まれました。これにより多くのレストラン経営者が「節約」を重視するようになり、業界全体でも健全な営業をおこなう風土が形成されつつあるのだとか。
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年配者は今も「食べ残し」の作法を守っていますが、若者層は「無駄にしない」ことを重視。できるだけ「完食運動」を実践しようとしているそう。時代の移り変わりにより、マナーに少しずつ変化が生まれているのは日本だけではないようです。
(取材・文=つちだ四郎)





