生まれも育ちも神戸市中央区でサブカル郷土史家の佐々木孝昌(神戸史談会、神戸史学会・会員)が、北区出身で落語家の桂天吾と、神戸のあれこれについてポッドキャストで語る『神戸放談』(ラジオ関西Podcast)連載シリーズ。今回のテーマは「東灘区」です。
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東灘区と隣接する北区出身の落語家・桂天吾君。その東灘区のイメージを聞くと、「セレブ・洋菓子が美味しい・教育熱心」とのこと。まさにステレオタイプなイメージだろう。

僕は大学4年間を岡本に通っていたが、今も変わらず小洒落た駅前学生街といった雰囲気は健在。30余年前の通学していた頃とは店もだいぶん変わったが、当時よく行っていて今でもあるのはお好み焼きの「とんと亭」や「甲南そば」、喫茶店の「カフェ・ド・ユニーク」に「珈琲館」、和菓子の「安政堂」、パンの「フロイン堂」といったところか。残念ながら閉店してしまったが、出汁の美味かった信州そば「二太呂」とスパゲティの「民芸馬小屋」はもう一度食べたい味である。
当時は車で大阪方面へ向かうと、山手幹線が岡本で行き止まりになっていたので、“ここで神戸が終わり”感が強かった。だから、芦屋の手前、神戸の東端という実感を強く持ったものである。
だが、印象深いのは「フェリー」と「プール」のイメージだ。阪神淡路大震災以前は青木にあった東神戸フェリーセンターから高松や高知へ、近年は六甲アイランドから大分へよく船旅をしている。そして、プールである。神戸っ子には忘れ難い深江浜の「新神戸大プール」だ。幼少の頃はよく行ったものである。もう一つ、わずか4年で姿を消した幻のプール「六甲ランドAOIA」。幸い学生時代に遊びに行っていた。今は「デカパトス」がある。
また、岡本には超古代文明好きの聖地もあるのだ。裏山の金鳥山である。1949年、電気技術者の楢崎皐月氏が同山で電位測定調査をしていたところ、カタカムナ神社の宮司と名乗る人物から超古代文字で書かれた巻物を見せられる。これは同神社のご神体とされ、古代の科学や哲学が書かれているという。これを楢崎氏が書写したのが『カタカムナ文献』とされている。このカタカムナ神社は、保久良神社ではないかとする説もあるようだ。

そんな東灘区の浜手は、灘五郷のうち御影郷と魚崎郷がある酒処でもある。兵庫区の兵庫津は近世神戸の中心市街であったが、現在は工場や倉庫などが多く、近世を思わせる街並みでは無くなっている。
東灘区は震災で酒蔵も壊滅的被害を受けた。江戸時代の雰囲気は無くなったとはいえ、今も酒蔵は続いている面では同じ浜手でも兵庫区より東灘の方が“近世の市街地の空気感”があるのではないだろうか。江戸から続く「だんじり」も健在だし、阪神御影駅近くには江戸時代から続く和菓子店の「虎屋吉末」や「常盤堂」もあるし。
ちなみに、阪急御影駅近くには江戸期の建物も現存する弓弦羽神社が。岡本の山裾には江戸時代からの名所である梅林も復元されているし、先述の「安政堂」も梅林の見物客向けの茶店として江戸時代に創業している。
神戸は近代のイメージが強いが、東灘は意外に「近世神戸」を感じられる市街地でもあるのだ。
(文=サブカル郷土史家 佐々木孝昌)
※ラジオ関西Podcast『神戸放談』#18「東灘区をあれこれ放言」より






