【ポーランドジャズ紀行】(2)注目ジャズバンドの音楽にみる、ポーランド人のメンタリティー | ラジトピ ラジオ関西トピックス

【ポーランドジャズ紀行】(2)注目ジャズバンドの音楽にみる、ポーランド人のメンタリティー

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 欧州のジャズ大国といわれるポーランド。その特徴や歴史、実情などを、神戸を拠点に活動するジャズピアニスト・李祥太さんが現地取材しました。3回にわたる【ポーランドジャズ紀行】、その中編では、ジャズバンドにスポットを当てつつ、途中でポーランド料理も取り上げます。

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 9月上旬、「Jazz from Poland in Japan」と題したイベントが開催され、大阪・関西万博ポーランド館に加えて、大阪市内のライブハウスでポーランドジャズが聴けるのですが、このイベントに先駆けて現地のジャズシーンを取材すべく、先日ポーランドまで出張してきました。多様なポーランドジャズの謎をひも解きつつ、旅の様子とともに「ポーランドジャズ紀行」として紹介します。

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■EABSエアブス

 ハードだった初日最後のインタビューは、歴史ある佇まいが魅力的なポーランド料理のレストランにて。ワルシャワ随一のジャズクラブ「Jassmine」での公演に向けてリハーサルをしていたバンド「EABS(エアブス)」のメンバーが駆けつけてくれました。

 EABSは南西部にあるポーランド第4の都市・西部の街ヴロツワフ発、ポーランドジャズの「今」を語る上では外せない、今回来日するバンドの中でも目玉バンドの一つです。

 バンド名のEABSは「Electro-Acoustic Beat Session」の略で、もともとはヴロツワフの”Klub Puzzle (Puzzle Club)”というお店で開催されていたセッションイベントの名前でしたが、ここでセッションを重ねたメンバーにより結成された同バンドの名称にもなったとのこと。”reconstruction from deconstruction(脱構築からの再構築)”をコンセプトに掲げ、過去の音楽に敬意を払いつつも、それらを最新のジャンルの音楽とミックスすることで新しい音楽を生み出してきています。

 これまでにリリースしてきたアルバムも、ポーランドジャズのレジェンド、クシシュトフ・コメダに捧げたアルバム「Repetitions」から、スラブ民族の失われた文化にアプローチした「Slavic Spirit」、Sun Ra Arkestraのポーランド初演の未発表音源が33年ぶりにリリースされたことに端を発した「Discipline of Sun Ra」など、先人の音楽を基盤に新しいサウンド・解釈を加えて独自の音楽を作り出しています。

 キーボードのマレクとサックスのオラフを中心に、バンドの成り立ちや最初のアルバムリリースに至った経緯などを丁寧に説明してくれました。

「(活動拠点だった)Puzzle Clubが閉まることになり、何かを残さなくてはと考えてレコーディングを始めたんだ。店が閉まったのは悲しいことだったけど、それが新しいことが起きるきっかけになったんだ」

 アルバム制作資金を貯めるために、オラフがアイスランドまで4か月間出稼ぎに行ったという話も教えてくれました。

 会話の流れで、トマシュのインタビューにも出てきた”スラヴィック”の話題に。「スラヴィックについては言葉で説明するのは難しいし、実際にスラヴ人の時代の音楽がどういうものかも分からない。でも私たちのアイデンティティに関わることであり、遠い昔に埋もれてしまった”スラヴィック”というものを、私たちは新たに作り出したいと思うし、アルバム「Slavic Spirit」はそんな思いを込めて創り上げた」とマレク。

「『スラヴィック・メランコリー』とは何なのか、それがどんな心情なのかうまく説明はできないけれど、ポーランド人はきれいな形で悲しむ。冬に薄暗い曇り空の下で春を待っているんだ」という独特な表現を聞き、ポーランド人のメンタリティーとそれを反映した音楽について、ほんの少しわかった気がしたのでした。

 ヨーロッパのほか、アジアでは中国までツアーで来たことがあるそうですが、来日は今回が初。ベルリンでは日本のジャズ喫茶のような場所(リスニングバー)が流行っているそうなのですが、「日本にはそういうのがあるんだろ?」と興味津々(来日中どこかのジャズ喫茶でEABSのみなさんと出くわすかも!?)。初めての来日を一同心待ちにしていました。食事の終わり際「明日の夜は何してるの? よかったらJassmineでのライブに来ない?」と、うれしいお誘い。二つ返事で「是非!」と参加を約束し、レストランを後にしました。

EABSのメンバーと。左からマレク、ヤクブ、マルチン、李祥太(筆者)、ライターの岡崎凛氏、オラフ
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