生まれも育ちも神戸市中央区でサブカル郷土史家の佐々木孝昌(神戸史談会、神戸史学会・会員)が、北区出身で落語家の桂天吾と、神戸のあれこれについてポッドキャストで語る『神戸放談』(ラジオ関西Podcast)連載シリーズ。今回のテーマは「鈴蘭台」(北区)です。
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神鉄鈴蘭台駅前には、戦前から昭和40年代まで温泉があった。その歴史や痕跡を僕の「神戸新聞」の連載で取り上げたのだが(詳細は8月18日夕刊「四ツ目がとおる~兵庫はみだし近代考」参照)、この時の取材で初めて駅周辺をじっくりと探索した。これが非常に面白く新鮮だったのだ。

1928年、神有こと神戸有馬電気鉄道の小部駅(現・神鉄鈴蘭台駅)開業に伴い、“関西の軽井沢”として開発された別荘地が鈴蘭台である。別荘地ではあるが駅の周辺には北神商業学校のほか、前述の温泉や旅館・商店・遊園地(今でいう公園)・神社・ダンスホールなども作られ、避暑地の歓楽街的雰囲気が漂っていたようだ。
戦後になるとニュータウン開発がされてベッドタウンとなり、そういった雰囲気も無くなった。だから、僕の中での鈴蘭台は「近代遺構なども残っていない面白味のない新興住宅街」というイメージで興味の対象外だった。ところがである。意外や近代遺構も少なからず残っているうえに、駅前周辺の街並みも興味をそそられるものだった。戦前の商店や住宅が、いくつか現存していたのにも驚いた。
駅の東側にある小高い丘には、ぎっしりと住宅が建ち並ぶ。この麓に温泉があり、丘の上に遊園地があった。その遊園地に隣接して、今も末広稲荷神社が鎮座する。神有の社員代表によって昭和初期に祭られた、いわば鈴蘭台開発の歴史と共にある神社だ。ここからの眺めが抜群なのである。何か神戸とは思えない「おばあちゃんの田舎」へ来たような、または「山間部の隠れ家的な温泉地」に来たかのような錯覚に陥る。郷愁を誘うのだ。戦前は住宅も無いこの神社周辺を、温泉に入ったあと散歩しながら夕涼みしたのではないかと想像してしまう。ちなみに、戦後の宅地造成時に起こった祟りの話も興味深かった。

麓の参道入口には大きな鳥居が建つが、その横の古びたビルには「片山珍鳥」というペットショップがある。看板には「犬・小鳥・剥製」と書いてある。剥製? 中々、珍しい。しかも消防団が隣接しているので火の見櫓(やぐら)も建っている。これは、鈴蘭台らしからぬ“珍スポット的”風景だ。

駅から南へしばらく歩くと、県道52号の手前に小高い森がある。戦前の旅館跡だ。その付近には古い日本建築の住宅が点在し、地方の歴史的な町並みを想起させる。時空が変わったかのようだ。一方、森のきわには半分閉鎖された昭和なマンションがそびえる。これまた、鈴蘭台のイメージらしからぬ景観なのだ。


改めて実感したのが、旧市街から鈴蘭台が近いことだ。神鉄湊川駅から電車に乗っても、車でJR神戸駅辺りから有馬街道を走っても、15~20分程で着くのだ。鈴蘭台出身の落語家・桂天吾君は自虐的に語るが、意外や意外、鈴蘭台駅周辺は神戸らしからぬカオス的な雰囲気もあっておもろいわ。
(文=サブカル郷土史家 佐々木孝昌)
※ラジオ関西Podcast『神戸放談』#23「鈴蘭台は神戸じゃない?!」より





