さまざまシーンで重んじられ必要とされる「礼儀」。それを表現するのが「礼法」ですが、そもそもどういったものなのか、はっきりと説明できる日本人はどのくらいいるのでしょうか。近年は海外からも注目されており、日本文化の精神性を自らの表現に取り入れるべく学びたいとフランスから陶芸家やダンサーが来日したほど。小笠原流礼法・宗家の小笠原敬承斎(けいしょうさい)さんに詳しく話を聞きました。

☆☆☆☆
小笠原流礼法は、室町時代から連綿と続く日本の伝統文化。700年以上にわたって受け継がれてきました。その宗家を務める小笠原さんは、全国に教室を展開し多くの門弟を指導しています。
「礼法とは、朝起きてから寝るまで、すべてに関わる『心得』です。たとえば“姿勢を良くしなさい”と漠然と指示したとします。言葉としては伝わるでしょうが、本質までは伝えられません。その理由は、“なぜそうすべきか”という動機や、伝える相手に対しての心遣いが抜けているからなのです」(小笠原さん)
小笠原さんが最も大切にしているのは、所作の背景にある「心」なのだとか。とくに印象的だったのが「お辞儀の意味」の話でした。
「お辞儀とは『あなたを信頼しています』という、相手が心を開いたサインです。頭を下げるという行為は、自分の急所をさらけ出すこと。信頼していなければできない動作です」(小笠原さん)
礼法は“型にはめる”ことではないとも。「時には省略することも大事。100ある作法の中で1つしか使わないということもあります。ですが自由になりすぎると“自己流”になってしまい、相手に心が伝わりにくいこともある。だからこそ、基本的なものをお伝えした上で、最後はその人自身が的確な判断をもとに美しく行動していくというところを目指しています」とのこと。
もともとは礼法の道に進むつもりはなかった小笠原さんですが、転機となったのは海外留学中の体験だといいます。
「自分たちの文化を他国の人たちに伝える機会があった時、日本人が1番多かったのに『これを伝えたい』と強く思う人が少なかった。一方で、タイからたった一人で来た男子学生が、目を輝かせて誇りを持ちながら伝えている姿を見て深く反省したんです」(小笠原さん)
帰国後、祖母の弟である先代宗家のもとを訪れました。最初は「気軽に学ぶつもりだった」ものの、本格的に道を極め後継者として指名されるまでに。700年の歴史で初となる女性宗家としての重責も、背中を押してくれた先代と自身の「好き」という気持ちに支えられたと語りました。30歳で宗家を継承し、年上の門弟たちに囲まれる日々。若さゆえの苦労もあったといいます。
「言葉で正面から伝えすぎたこともありました。でも若かったからこそ、『助けて・教えて』が言えたのはありがたかったとも思います」(小笠原さん)
日常生活では“宗家”という肩書を門下の人々に意識させないため、オフの時間も大切にしているそう。「皆さんが緊張しないで楽しく過ごせるように、私自身も自然体でいるようにしています」と笑顔で語りました。
最後に、小笠原さんは「思いやりは、自分の中に“心のゆとり”がないと生まれないものです。これを持つための自信として、自分の好きなことを見つけ深めていってください。そして皆様がより豊かな日常を過ごされるきっかけとして、礼法にも興味を持っていただけたらとても嬉しいです」とメッセージを添え、インタビューを締めくくりました。

※ラジオ関西『ハートフルサポーター』2025年8月25日放送回より





