現代の視点で見つめる民藝 兵庫陶芸美術館「MINGEI ALIVE」 マルテル坂本学芸員が解説 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

現代の視点で見つめる民藝 兵庫陶芸美術館「MINGEI ALIVE」 マルテル坂本学芸員が解説

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 兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市)では、日常生活の中に息づく美を紹介する特別展「MINGEI ALIVE-いま、生きている民藝」が開かれている。展示を担当した同館のマルテル坂本牧子学芸員に作品の背景などについて解説してもらった。

本展の横断幕  暑い日が長く続いた秋もようやく深まり、木々が色づいてきました。本展のサイン類はすべてモノトーンでシンプルに仕上げています
駒井正人 《土瓶(三種)》 2020-25年  本展のポスターイメージに採用。多くの人が「鉄瓶?」と思っていると思いますが、やきものです!一つ一つ轆轤(ろくろ)成形と削りで仕上げられています。精巧さの中に揺らぎもあり、さりげない手仕事の温もりが伝わります

 兵庫陶芸美術館では11月24日(月・振休)まで、兵庫陶芸美術館開館20周年記念特別展「MINGEI ALIVE-いま、生きている民藝」が開催されています。

 誕生から100年が経った民藝(民衆的工藝の略)。提唱者で宗教哲学者の柳宗悦(やなぎ・むねよし、1889-1961年)は、その土地ならではの風土や伝統に根づいた素材や技法を用い、用途に即して、誠実な手仕事によって作られた生活道具の中に「健やかな美」を見出しました。それは特別なものではない、平凡で慎ましい日々の生活に目を向けた、新しい美の価値観でした。

朝鮮 《染付秋草文壺》 18世紀前半 日本民藝館蔵 1910年に学習院の学友と共に文芸雑誌『白樺』を創刊し、西洋近代思想や美術などを精力的に紹介していた柳宗悦でしたが、1914年、朝鮮陶磁との出会いをきっかけに、やがて民藝の思想を深めていきます。素朴な絵付けのシンプルな壺は、柳にとって、「そのままで美しい」と思える無垢な魅力を湛えていました
富本憲吉 《色絵金銀彩四弁花模様蓋付飾壺》 1956年 兵庫陶芸美術館蔵 民藝運動の草創期に参加しながら、後に運動とは距離を置いた富本憲吉の晩年の最高傑作の一つ。恐らく柳の考える民藝とは対極の美しさを示すものですが、模様とかたちにオリジナリティーを求めた富本のうつわは、何といっても現代的でお洒落だったのです。富本はその美しさをより多くの民衆に届けたいと願っていました

 生活道具の中でも、特に使用頻度の高い「うつわ」は、その時代ごとの民藝をよく体現するものといえるでしょう。その中でも陶磁器に絞り、新旧の個人作家の手仕事に焦点をあて、現代の視点からあらためて民藝のエッセンスを見つめてみようというのが本展のねらいです。

 ここで、あれ?民藝って、「無名の職人」の手仕事によって作られた生活道具ではなかった?と思われる方もいらっしゃるでしょう。確かに、当時、柳が見いだした美しさとは、そのようなものの中に宿っていました。ただし、それは100年前の話。近代化にともない、失われつつあった手仕事による生活道具は、当時はまだ身近にあったからです。現実的に、私たちの生活を支える道具のほとんどが機械生産による工業製品となっている今、手仕事による生活道具は、身近なものでも、安価なものでもなくなっています。「いま、生きている民藝」は、現代においては工業製品について言うべきものかもしれません。

河井寬次郎 《鉄釉土瓶&湯碗各種》 1931-49年 優れた造形感覚を持ち、特に釉薬の扱いに長けていた河井寬次郎は、見て美しい、使って楽しい、魅力的なうつわを数多く制作しています。民藝の思想に共感しながらも、作品から溢れ出る作家性は押さえきれません。本展では、河井寬次郎記念館より、河井家で今でも時々使用されるといううつわをお借りしてきました
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