そんな思いにかられながらゲストハウスに戻ると、エントランスの鍵が閉まっていた。チャイムをいくら鳴らしても誰も出てこない。
施錠された鍵をどうにか触ってみても、もちろん開かない。思いつく限りの手段を試し、しばらく格闘してみたが、どうやらフロントスタッフが出勤してくるまで、部屋には戻れなさそうだった。さらに最悪なことに、そのスタッフがいつ出勤するのかもわからない。
ぼんやり決めていた移動スケジュールが崩れていく音が脳内でこだましていたが、部屋に入れないのだからどうしようもない。自分に唯一できることは出勤してくるフロントスタッフを待つことだけだった。
なにもかもあきらめてゲストハウス前のベンチに座っていると、一連のぼくの行動を見ていたのか、近くのコーヒーショップのお兄さんがタダでコーヒーをいれてくれた。笑いながら話しかけてきてくれた彼が何を言っていたのかはわからなかったけど、察するにこの“宿泊者締め出され事件”はよくある光景なのかもしれない。
ありがたくコーヒーを受け取ると同時に、「やっぱり待つしかないんか……」と、ぼんやりしていたあきらめがはっきりとした覚悟に変わった気がして泣けてきた。
いただいたコーヒーを勢いよく口に含むと、粉だらけで驚いた。上澄みだけ飲むアラビア(アラブ式)コーヒーという種類のものらしい。初めて飲んだアラビアコーヒーは、その粉っぽさ以上に苦い思い出に変わった。
≪つづく≫
【『独身リーマン、世界へ』イスラエル編 アーカイブ】
(1)独身リーマンがイスラエルに行って、すぐ帰りたくなった話
(2)イスラエルで迎えた、はじめての朝
(3)イスラエルの公衆トイレでドキドキ体験?!
(4)聖地・エルサレム到着
(5)エルサレムの旧市街地で感じた「人間の暮らし」
(6)「嘆きの壁」の2つの秘密
(7)キリスト最期の地「ゴルゴダの丘」