兵庫県姫路市香寺町の日本玩具博物館で、8月31日まで「神戸人形賛歌~ミナトマチ神戸が育てたからくり人形~」展が開かれている。尾崎織女・学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク。2回目で取り上げるのは、「創始期の作者たち」。
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台箱の横のつまみを動かすと、台に乗った黒い人形が手を動かし、首をふり、真っ赤な口をあけて西瓜を食べたり、酒を飲んだり……。車にのった人形が太鼓や鉦(かね)を叩いたり、魚釣りをしたり……。「神戸人形」はデザインの奇抜さと動きの滑稽さが笑みを誘うからくり玩具です。
「神戸人形」が誕生したのは明治中期から後期にかけてのこと。淡路の人形師・中村某によって創始されたといわれてきましたが、決定づける資料は見つかっておらず。創始者については、神戸長田の「野口百鬼堂」、はたまた八尾某、あるいは長田神社(神戸市長田区)の参道筋で商店を営んでいた“長田の春さん”なる人物……などなど、様々な説があります。
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●「野口百鬼堂」のお化け人形
いま、創始者と目される人物の筆頭にあがるのが「野口百鬼堂」です。当館所蔵品の中で、「夕涼みのお化け」「木魚と鉦叩きのお化け」「ポンプ漕ぎお化け」の台底には、“神戸長田村/元祖おばけ/野口百鬼堂”とゴム印が押されています。
当館のコレクションの中で、これらと作風が共通する25~26点が野口百鬼堂製と考えられますが、いずれも柘植(ツゲ)の木肌の美しさをそのまま生かし、ろくろ首や三つ目小僧など、お化けを題材にしたものばかり。このころの「神戸人形」が「お化け人形」と呼ばれたのもうなずけます。
小さな顔にはめ込まれた象牙製の目の動き、思いもかけぬほど長く伸びる首、前へ無造作に放り出される脚、鉦や木魚を打つバチさばき……、その動きは柔らかく連続的で、まるでお化けが生きて呼吸しているような生々しさを感じさせます。