さて、日本国憲法13条は「個人の尊重と生命・自由及び幸福追求の権利」を定めており、25条は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が国民にあること、公衆衛生の向上及び増進に努めるべき国の責務」を定めています。PCR検査体制の不備や医療費削減政策に起因するコロナ病床確保の停滞など、医療を通じた国民の生命・健康の権利保障が十分でない事態は、憲法13条、25条に定める『国民の権利や国の責務』が実現されていない状況を如実に表しています。
ところで今回、法律上の「緊急事態宣言」では十分な対応ができないとして、憲法を改正して「緊急事態”条項”」を付け加えるべきとする意見があります。それは、首相・内閣の判断によって憲法の効力を一時的に停止し、首相・内閣に権力を集中させて、国民の自由や基本的人権を全面的・包括的に制限することを可能とするものです。しかし、緊急事態に有効に対応するには、「法律の整備」と「事前準備」(危機管理)が必要であって、安易に憲法を改正して「緊急事態”条項”」を付け加えることで解決しようとするのは「愚策」だと私は思っています。
今回、法律上の「緊急事態宣言」で対応が十分できなかったのは、むしろ、政府の危機管理意識の薄さに原因があります。経済か感染防止かという選択を「アクセルとブレーキ」という表現だけに終始してコロナ対策に一貫性を欠いてきたこと、さまざまな事情があれど、現状のワクチン接種体制が諸外国に比べて「周回遅れ」の状況にあることなど課題は山積しています。
あくまでも国民の生命・健康を守るという視点から、憲法の範囲内で、憲法の理念をしっかり守り、基本的人権の保障を確実に行うというスタンスで早期から危機管理に臨んでおれば、憲法13条及び25条に定める国民の権利や国の責務が十二分に実現されていたのではないかと残念に思います。
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