学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐる財務省の決裁文書改ざん問題で2018年3月、自殺に追い込まれたとされる近畿財務局の元職員・赤木俊夫さん(当時54)が改ざんされるプロセスをまとめた「赤木ファイル」が23日、赤木さんの妻(50)が国を相手に大阪地裁に起こした損害賠償請求訴訟で証拠採用された。 財務省本省が近畿財務局に繰り返しメールで改ざんを指示しており、財務省が組織的に進めたことをうかがわせる事実が判明した。
訴状などによると、赤木さんは当時の佐川理財局長の命令を受けた上司の改ざん指示に当初抵抗したが、最終的に決裁文書から安倍晋三前首相の妻・昭恵氏や複数の政治家に関する記述を削除させられた。赤木さんは過労や心理的負荷の蓄積で2017年7月にうつ病を発症して休職、2018年3月に神戸市灘区の宿舎で自殺したとされる。
赤木さんの妻は、文書改ざんを強いられたことが自殺の原因だったと主張しており、この訴訟は自殺との因果関係が主な争点となっている。今回の「赤木ファイル」の開示と訴訟での証拠採用は今後の司法判断に影響する可能性がある。
国が大阪地裁に提出し、原告側に22日に開示していた。国が開示したファイルは518ページに及ぶ。ファイルには複数の指示者の一覧表があるが、一部の名前は「黒塗り(マスキング)」されている。理財局と近畿財務局などとの間で交わされたメールの記録は約40通含まれている。
この一覧表には「指示内容」として、当時の理財局長、佐川宣寿・元国税庁長官(63)の名前を挙げ「佐川理財局長に説明後、再修正」「佐川局長から国会答弁を踏まえた修正を行うよう指示(調書の開示により新しい情報を与えることがないよう)」と記されていた。指示者には、肩書から財務省国有財産審理室の補佐とみられる人物が含まれ、近畿財務局管財部次長とみられる人物は名字だけ記載されている。指示があったとされる期間は2017年2月26日~4月13日。
この期間中の3月8日、赤木さんは「調書(決裁文書)を修正することに疑問が残る。行うべきではない」との趣旨で抗議するメールを理財局や近畿財務局に送信していた。ファイルには、財務省理財局長だった佐川宣寿元国税庁長官(63)が国会答弁を踏まえた上で、決裁文書を修正するよう直接指示したことがうかがえる内容のメールがあった。理財局から赤木さんら近畿財務局の職員に発信したとみられる。しかし具体的な指示系統などは不明のままだ。
妻は23日の口頭弁論で「国がなすべきことは、理財局内部のメールなどを誠実に提出し、国民に全てを明らかにすることだ。そのためにも第三者による再調査を実施するべきだ」と述べた。原告側は今後、真相解明のため佐川氏が現場にどのように指示したかを分析し、さらなる開示を求める。
妻は2020年3月に提訴。同時にファイルの開示を要請。国側は存否を明らかにしなかったが、大阪地裁に提出を促され2021年5月、ファイルの存在を認めた。
国はファイルを開示したが、財務省は幕引きを図る姿勢を崩さない。麻生太郎・財務相は22日の閣議後記者会見で、再発防止に全力を挙げる方針を示したが「再調査は考えていない」としている。
財務省の調査報告書によると、一連の問題は当時の理財局長だった佐川宣寿氏が主導、「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書を財務省が改ざんしたとされる。14件の文書から政治家の名前が削除されるなどした。財務省は佐川氏を停職3か月相当の処分とするなど関係した職員計20人の処分を発表した。佐川氏らは虚偽公文書作成容疑などで刑事告発されたが、大阪地検特捜部はいずれも不起訴とした。