たとえば喫茶メニューの「琥珀流し」。絶妙な寒天の柔らかさに季節によってバリエーションをつけた蜜がかかる(7月はペパーミントと赤紫蘇)。
「これも今、食感の良さで密かなブームになっている”ふわとろ”の先駆けやと思てます。トロっとしている、とろける、柔らかいものが皆さんお好きですね」
泰代さんは「すでにあるものを大事にしつつ、ないものを新たに受け入れるのが京都なんです。こうやって1200年もの間、歴史を刻んだんだと思います。京都で何百年も続いているのは、むしろ基礎を大事にしながら、新たに良いものを取り入れているだけやと思ってます。そのほうが楽なんです。それで失敗したら、あかんかったらもとに戻る。特別な工夫を無理やり絞り出すんじゃなくて、『行きつ・戻りつ』少しづつ歩む。これが大切です」との信条に行きついた。そのうえで「レースかん」は単にインスピレーション、「レース編みとレモン」の掛け合わせは、悩みに悩んで特別なことを考えたわけではなく、目についたものどうしの結びつきに過ぎなかったのだという。
■和菓子が表現する「季節感」
和菓子は季節感が命。「あんまり暑うなると、かき氷やアイスクリームに目と舌に移りますから、味覚の趣向も変わりますけど、『レースかん』はよう売れます。ただ夏にはカステラは売れません。見た目と食感、秋から冬はあんこなど味が濃くてお茶に合うもの、例えば栗羊羹やつぶあんの羊羹が好まれますから、逆に『レースかん』は売れません。これが季節感。夏は夏、冬は冬です。うちらは季節で商いやってます。1年はこの繰り返しなんですよ」