世界文化遺産・仁和寺(京都市右京区御室大内)が所蔵する「戊辰戦争絵巻」上下巻のデジタル彩色画の一般公開が、好評につき2022年1月4日~2月13日、「戊辰戦争カラー絵巻と純仁法親王展」として開催された。(※この展示は現在終了しています。記事中の写真は公開前に仁和寺の許可を得て撮影、一般公開期間中は撮影禁止)
絵巻は戊辰戦争のきっかけとなった1868年の「鳥羽伏見の戦い」を描いている。全39場面。幅31センチ、長さは上下巻合わせて約40メートルに及ぶ。1889(明治22)年に完成して明治天皇に献上された後、1891(明治24)年にわずかな数だけ非売品として制作され、 仁和寺や霊山歴史館(京都市東山区)、靖国神社(東京都千代田区)など一部にだけ、複製品が配られたという。
仁和寺は皇族や公家が出家して住職を務める門跡寺院であり、明治時代を迎えるまで30代にわたり続いた。皇族最後の門跡となる第30世・純仁法親王(じゅんにんほっしんのう)が1867(慶應3)年、「王政復古の大号令」により僧から還俗し、宮家の創設を許され、仁和寺宮嘉彰(よしあきら)親王となり、明治維新では政府の官職・議定や軍事総裁に任じられた。戊辰戦争では、奥羽征討総督として官軍を指揮。明治以降の仁和寺は、門跡に皇族が就かなくなったため「旧・御室御所」と称するようになった。
国宝12点、重要文化財47件、その他宝物など2万点以上が保有されている世界文化遺産・仁和寺。2012年ごろからデジタルデータの有効性に着目、文化財の正確な記録のためデジタル化を進めている。「戊辰戦争絵巻」、もとはモノクロの木版画だが、彩色によってリアルに当時の戦いのシーンが鮮明によみがえった。デジタル彩色には、超高精細スキャニングを経たことで歴史的資料として、絵画の詳細な描写から民俗学・歴史学的な情報も得られたという。
今回、文化財のデジタル保存に取り組む「先端イメージング工学研究所」(京都市左京区)代表理事、井手亜里(いで・あり)京都大学名誉教授率いるプロジェクトチームが、全長計約40メートルもの絵巻を高精細スキャンで取り込み、デジタル化を進めた。約100倍に拡大した画像にコンピューター上で彩色する地道な作業。約1年の制作期間を経た。井出氏は「イメージとして部分的にコンピューター画面いっぱいに拡大、そうすると画像や図柄がぼやけることなく原寸大で和紙に印刷できる。同じ大きさで彩色すると美しくなく、仮にそれを拡大すると、絵巻自体に違和感を覚える」という。