神戸市北区で2017年、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人・殺人未遂・銃刀法違反など5つの罪に問われた無職の男(30)の裁判員裁判が13日、神戸地裁で始まった。
男は罪状認否で事実関係は認めたものの、弁護側は事件当時、統合失調症により善悪を全く判断できない「心神喪失状態」だったとして無罪を主張、最大の争点は男の刑事責任能力の有無となる。判決は11月4日。
事件は2017年7月16日早朝に発生、起訴状によると男は神戸市北区の自宅で祖父母(いずれも当時83歳)の首を包丁で刺すなどして殺害後、近くに住む女性(当時79歳)も刺殺。さらに母親と近所の女性も金属バットなどで襲い、重傷を負わせたとされる。
男は逮捕直後「誰でもいいから刺してやろうと思っていた」などと供述していた。動機については明らかになっていない。
神戸地検は当時の精神状態を慎重に調べる必要があるとして2017年9月~2018年5月、8か月あまりの間、2度にわたり鑑定留置を実施し、精神疾患はあったものの刑事責任が問えるとみて起訴した。
冒頭陳述で弁護側は、男が犯行の2日前、インターネットの書き込みで、専門学校に通学していた際の同級生の女性のものとみられる投稿を解析して、自分へのメッセージと受け止めた男が「自宅近くの神社へ行けば、この女性と結婚できる」との妄想を抱いた。そして幻聴でこの女性が「家族を殺せ」などと指示し、男自身の体が無意識に踊らされていたと主張、妄想型の統合失調症に圧倒的に支配されていたと述べた。
検察側は男について「思い込みが激しく、ストレスをため込んで爆発させる性格」指摘した。精神障害はあったものの、犯行後、警察署へ連行された際、「人を殺してしまった。大変なことをした」と述べ、留置場でも祖父母へ向けて「ごめんなさい」とつぶやくなどした点を取り上げ、善悪の判断が著しく低下しているが全くの心神喪失とは言えず、心神耗弱(こうじゃく)状態にとどまるとした。