神戸市北区で2017年、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして殺人・殺人未遂・銃刀法違反など5つの罪に問われた無職の男(30)の裁判員裁判が神戸地裁で開かれている。
男は罪状認否で事実関係は認めたものの、弁護側は事件当時、統合失調症により善悪を全く判断できない「心神喪失状態」だったとして無罪を主張、最大の争点は男の刑事責任能力の有無となる。
事件は2017年7月16日早朝に発生、起訴状によると男は神戸市北区の自宅で祖父母(いずれも当時83歳)の首を包丁で刺すなどして殺害後、近くに住む女性(当時79歳)も刺殺。さらに母親と近所の女性も金属バットなどで襲い、重傷を負わせたとされる。
検察側は、男が犯行の2日前、インターネットの書き込みで、専門学校に通学していた際の同級生の女性のものとみられる投稿を解析して、自分へのメッセージと受け止めた男が「自宅近くの神社へ行けば、この女性と結婚できる」との妄想を抱いて犯行を決意したと指摘。善悪を判断する能力は低下していたが、一部は残されており、「心神耗弱(こうじゃく)状態」だったとしている。
一方弁護側は、男が幻聴で「この女性と自分以外は人間ではない」、さらに「家族を殺せ」などと指示され、体が無意識に踊らされていたと主張している。
神戸地検は男について、起訴前に2度の鑑定留置(それぞれ別の鑑定医が担当)を実施した。10月19・20日(第5・6回公判)に行われた証人尋問では、男の精神鑑定に関わった精神科医2人が、異なる意見を示した(※なお、精神科医は法廷内の発言で「責任能力」という文言を使用していない)。
最初に担当した鑑定医は臨床精神医学が専門。事件から約1か月半経過した2017年8月~2018年1月までに11回にわたり面会した。この医師によると、11回という面会回数は多い部類に入るという。
理由として▼重大事件であること▼事件(犯行)までに精神科の通院歴がなく、きちんと精査すべき▼精神を安定させるための投薬の影響 を考慮したことを挙げた。この医師は男を統合失調症としたうえで「ストレスを一気に爆発させるタイプ」との鑑定結果を示した。
2度目の鑑定をした精神科医は1回のみの面会。法廷証言では、統合失調症について、あくまでも「疑いがある」程度に過ぎず、最初の鑑定医が述べるほどの精神状態ではないとした。そして、妄想状態はあったとはいえ日常生活では支障はなく、自分の行動を思いとどまる判断ができたとして、精神状態は一定程度正常だったという趣旨の見解を述べた。