ドイツ政府は、ロシアから大規模な軍事侵攻を受けているウクライナに対し、対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。 対戦車ロケットや携行式地対空ミサイル「スティンガー」などの兵器を供与すると決めた。
第2次世界大戦で加害国となった反省から、ドイツは紛争地域への兵器輸出を避け、兵器を厳格に管理してきた経緯があり、これまでウクライナへの武器供与を拒否してきたが、今回大きく方針を転換した。 ショルツ首相は2月26日の声明でロシア軍を「プーチン大統領の侵略軍」と呼び、「ウクライナを防衛面で支援することは我々の義務だ」と強調した。
神戸大大学院・国際協力研究科 木村 幹教授(朝鮮半島地域・東アジア研究) は、ウクライナ危機でのドイツの方針転換に”想定外”との思いを隠せない。
ロシアとの関係を強化してきた中国の動向にも目を離せず、東アジアの安全保障に影響を与えかねないとの危惧から、木村教授は次のように指摘する。
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もともと軍事的解決を避けていたドイツ。そのドイツが軍事力を強化する。アメリカ、中国、日本に次ぐ経済力だが、国防費はGDP(国内総生産)比1.4%程度に抑えていたほどだった。
ロシアが軍事侵攻したウクライナは、第二次大戦時の1943年、7か月間の戦闘が続いたスターリングラード(現・ヴォルゴグラード)の手前にある。ナチス・ドイツが一番攻め込み、一番大きな被害を出し、ドイツ敗北の契機となった地域だ。ドイツが今回、その地域を助けるために、ジェット機を出す、武器を送ると言えるのは、「第二次世界大戦の終わりの終わり」と言える。もはやドイツは敗戦国ではなくなった、ということ。これは少なからず、「だったら日本も」と、日本にも影響が出るのではないかと危惧する。
東アジアで戦争が起きたわけではないが、ロシアの背後に中国を見る人は多いし、今回のロシアによるウクライナ軍事侵攻が、この先、中国と台湾に影響する可能性があるわけで、その際に日本はどうする?ということも問われるだろう。
敗戦国ドイツですら、”力と力の対決”を持ち出すことも辞さなくなった。国際社会の大きな変化をもたらすかも知れない。
3月9日に投開票される韓国大統領選挙の大きな特徴は、これまでの外交政策のポイントが、北朝鮮から中国になったことだ。韓国のみならず、特に東アジアでは「中国脅威論」が大きなウエイトを占めるようになった。そのなかでウクライナ危機が起きた。
韓国にとっては、これで日本が軍事力を拡大する方向へ転換すれば、当然反発する。国際政治が、理念よりも現実の力関係や利益を重んじる「リアル・ポリティックス」寄りになるのではないかとの危惧がある。言い方を換えれば、”きれいごと”だった国際政治のスタイルが変わる転機になるかも知れない。
プーチン大統領にとってのソ連崩壊(1991年)は、耐え難い事実であり、今回の動きを見るにロシアは依然として冷戦の秩序の中に生きていると思う。ロシアにとって、NATO(北大西洋条約機構)は、安全保障で当時のソ連と東欧圏7か国が結成したワルシャワ条約機構(1955~1991)と対抗した敵だった。だからNATOが拡大することが脅威だった。この考え方こそが、極めて冷戦的な考え方といえる。