アンドリイさんはこの年、「ゼンマーケット」を大阪で立ち上げ、日本でのビジネスを始めた。ウクライナ・キエフ国立大学で日本文化を学び、留学した大阪大学を卒業して数年経っていた。「ゼン」は日本文化の”禅”と、”ZEN”という言葉の響きから取った。
「今のところ、故郷・キーウの親族や知人と連絡は取り合うことはできます。キエフに住む母は、いとこと一緒に国の西側へ移動して避難しています。日本のメディアでも報じられている通り、ロシア軍が侵攻、住宅を爆撃、民間人も攻撃、生活インフラも破壊している様子が伝わってきます。家から出られない人もいる一方で、戦える者は武器を持って国を守ろうとしている。寒いこの時期、シェルター代わりの地下鉄の駅に避難して、階段やホームので夜を明かす人も殺到しています」。
ロシア軍によるウクライナへの攻撃が日に日に激しさを増している。
日本時間の1日、首都キーウでは軍事拠点ではないテレビ塔が2発のミサイルに攻撃され、近くを歩いていた通行人5人が死亡した。第2の都市・ハリコフでは市街地を攻撃し、州庁舎へミサイルを撃ち込み破壊、少なくとも10人が死亡したという。アンドリィさんは仕事のかたわら、インターネットを通じて目にする映像で,、故郷の変わり果てた姿に心を痛める。
「もちろん、ウクライナ国民は犠牲者です。ただ、ロシア軍も何のためにウクライナへ攻め込んで来たのか、どこに行けばいいのかわからない様子だということも伝わってきます。そういう意味では、ロシア軍も犠牲者なのかも知れません。行き当たりばったりで攻めている。計画通りに進んでいないのです。 下手なやり方です。ロシアはもともと、1~2日で(侵攻を)終わらせるつもりだったと思います。しかしウクライナ国民が必死になって抵抗しているので、いら立つのでしょう。さらにロシア国内では『ウクライナ軍は弱い、すぐに降伏する』という自国のプロパガンダを信じていた、それが実際に侵攻して、想像と異なっていたことを知るのです」。
いつまでこの状態が続くのか、気の重い日々をオフィスで過ごす。「キーウでのロシア軍の爆撃や砲撃が続いていますが、ロシア軍は思うような侵攻ができず、腹いせに住宅街を攻撃しています。キーウの人々が住む場所や家族を失い、路頭に迷う姿は容易に想像できます。本当に心苦しいのです。キーウのみならず、どの都市でも激しく抵抗するので、ロシアの思惑通りの侵攻はできない。しかし、今もロシア国内では、自国優位の報道が伝わっていると聞きます」。