鉄筋コンクリート4階建て。1930(昭和6)年に完成し、花札やトランプ、かるたの製造・販売の場として、また創業者・山内家が居住する場所として利用されてからは、1959(昭和34)年まで本社として使われた。その後⻑らく倉庫として使われ、一般の目に触れることがなかったが、歴史的な風景を残すため、当時の趣を残す既存の棟と、安藤氏がプロデュースした新築棟とが融合し、高度なリノベーション技術をさりげなく伝えている。
トランプ製造の地にちなみ、スペード棟、ハート棟、ダイヤ棟、クローバー棟と名付けられた各エリアは異なる雰囲気を有しながらも、当時の姿を残したままの貴重な造形物や、安藤⽒のこだわりも散りばめられており、それらが融和することで⼭内家の伝えたい任天堂創業からの想いを肌で感じられる設計となっている。
エントランスから異空間が広がる。グリーンがベースのタイルが優しい。そして鷺(サギ)のモニュメントが出迎える。旧・創業家の壁紙を集め、切り貼りした斑(まだら)模様が目を引く。ほど近い鴨川に多く生息する鷺は、丸福樓ダイニングラウンジのタイル画としても登場する。
安藤さんはグランドオープンを前に、丸福樓を訪れ、「地球上でも数少ない千年都市・京都から世界に向けて発信してきた任天堂だけあって、この建物からは『過去から未来へ』という感じを強く受ける。だからこそ、この建物を可能な限り残したい、約100年前に作られたこの建物を、さらに50年、100年と持続させたくて手を加え過ぎないよう意識した」と振り返った。
丸福樓で宿泊部門を統括するルームスディビジョンマネージャー・藤原伸吾さんは、兵庫県小野市出身。幼い頃から、すぐ近くのエキゾチックな神戸に憧れていた。ホテル業界に入り、神戸・旧居留地のオリエンタルホテルなどで勤務の後、活躍の場を京都に移して出会ったのが丸福樓だった。今までとは全く違うタイプのホテル運営に胸が躍るという。