丸福樓の魅力について藤原さんは「まずは昭和初期の洋風建築と、安藤忠雄氏の現在建築との融合。そして『博物館と錯覚するような空間』。1階ラウンジはかつての検品場。リニューアルされて『Libraly dNa(ライブラリー ディー・エヌ・エー)』というサロンになった。かつて製造された花札やかるたのほか、任天堂をゲーム業界の雄へと押し上げた“GAME BOY”がここに展示され、チャレンジしてきた歴史を感じていただきたい。コロナ禍での開業を機に新たに提案したいのは、快適に室内で過ごすという、おうち時間ならぬ“ホテル時間”。日本人にとってのホテルでの過ごし方を考えるきっかけになれば」と話す。
宿泊客には、『レストラン carta(カルタ)』で季節の食材を活かした無国籍料理を、夕食・朝食ともにコース仕立てで提供する。空間デザインと料理メニューは料理研究家の細川亜衣氏が監修を手掛ける。
キッチンマネージャーの井上真依さんは、細川さんのコンセプトを忠実に守りたいと話す。「最良の食事は、おうちで口にするものであったり、友人宅へ招かれて食すもの」。家庭料理のようなレストランを目指し、ウェイターやウェイトレスではなく、料理人自らがもてなし、手作りの素朴さと温もりを提供する。客室の延長である第二のリビング感覚で。
リノベーション技術の巧妙さに驚かされるのは、3階なのに401号室。既存棟では3.5階に位置する部分と、規格が異なる新築棟の4階部分を結合させたスイートリビングルームだ。
バルコニーの形状も独特で、新たに造ることができないという。藤原さんは、「建築やデザインに興味があれば、こうした隠れた技術も目に触れることができ、飽きの来ない部屋設計になった」と自信をのぞかせる。