鉄鋼大手・神戸製鋼所が神戸市灘区で増設している石炭火力発電所2基について、環境影響評価(アセスメント)の手続きに瑕疵(かし=不十分なこと)があるにもかかわらず、変更の必要がないとした経済産業省の確定通知は違法だとして、周辺住民ら12人が国を相手取り、通知の取り消しなどを求めた訴訟の控訴審で、大阪高裁は26日、一審判決を支持し、原告の訴えを棄却した。原告側は上告する。
温室効果ガスの排出が多く、世界的に廃止される流れが強まっている石炭火力発電所について、環境アセスに対する国の判断の是非が初めて争われている。
2基は石炭火力で出力計130万キロワットの神戸発電所3、4号機(1基は2022年2月に稼働、もう1基は2022年度中に営業運転を開始予定)。経済産業省は2018年5月、神戸製鋼が提出した環境アセスを認めた。しかし原告らは、経産省は地球温暖化を助長する二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない他の燃料を検討せず、微小粒子状物質(PM2・5)による大気汚染への対策も不十分のまま、環境アセスの手続きが終了したとしていた。
さらに経産省には温暖化対策の枠組み「パリ協定」に基づく削減目標を達成する義務があり、義務に沿ったCO2の排出規制を省令で定めていないことは違法だと主張していた。
しかし大阪高裁は判決で、「CO2の排出で生じる地球温暖化による健康被害は、発電所の周辺住民に限られるものではない」として原告適格を認めなかった。そして「アセスメントの調査などの手続きが適切かどうかの判断には、高度な専門性や技術が必要」と述べ、一審と同じく「経産相の判断に裁量権の逸脱、乱用はなかった」として訴えを退けた。
■「日本、気候変動に対する危機感が希薄」~最高裁判断に期待寄せる原告ら
日本はパリ協定に2016年に批准、2020年12月、菅首相(当時)も「温室効果ガスを2050年までに実質ゼロにする」と宣言している。
原告弁護団は判決後の会見で「判決は、日本の気候変動に関する危機感の希薄性を表している。温暖化対策への切迫性がない」などと述べ、上告について「日本ではCO2問題について誰ひとり訴えを起こせない。これは人権問題であり、世界の流れに逆行して大型石炭火力発電所の新設・稼働に歯止めをかけられない日本は、公害国家になる」と最高裁の判断に期待を寄せた。
住民らは2基の稼働差し止めを求める訴訟も神戸地裁に起こしており、係争中。