日本は災害大国と言われ、各地で“災害に強い地域社会”の形成に向けた取り組みが行われている。震災を経験した兵庫県神戸市長田区にも、その活動を継続的に進めている企業がある。有限会社スタヂオ・カタリストだ。代表取締役の松原永季さんに詳しく話を聞いた。
一級建築士の資格を持つ松原さんは、長田区駒ヶ林の住宅街の一画にある古民家を改修し、事務所にしている。もともとは設計事務所に勤めていたそう。しかし1995年に阪神・淡路大震災を経験。“街の記憶”を継承する街づくりが必要だと感じていたところへ、仕事を通じて駒ヶ林地区と縁が結ばれた。そして「街づくりは、外からではなく、内で自ら体験していきながら行うべきだ」と考え、20年前、その地に拠点を構えたのだという。
松原さんが取り組むことの一つに、神戸市が進める「密集市街地の防災街づくり」活動がある。災害発生時の課題を抱える街の、建物や道の防災性を高めていく作業。地域の街づくり協議会と連携しなが地元の意見を聞き取り、合意の上で道作りを進めたり、建て替えのルールを決めたりしていくのだそう。そのようななか、事務所の土間の部分を使って経営する喫茶店「初駒(はつこま)」は、地域の憩い場としても機能しているという。
駒ヶ林は古くからの漁村の集落で、第二次大戦時の空襲で焼けず、阪神・淡路大震災でも火が出なかったために古い建物が多く残っている。
「路地が多くて家が密集しているため、火災が起きると燃え広がりやすくて逃げにくいという難点も。ただ、防災性ばかりを考えて、道を広げたり、建物を新しくしたりすればいいというものではない。狭い路地の持つ雰囲気、古い建物の持つ心地よさを大事にしたい。住んでいる人たちの考えをいかに継承していくのかが重要なことだと考えます」(松原さん)
長らく駒ヶ林に住んでいる人に話を聞くと、「駒ヶ林は路地の街、そして人情の街」という話をされるのだとか。古い街をベースにしたコミュニティの強さを地域の人たちが自覚しているぶん、その価値を継承していく仕組みが大切になってくる。松原さんは、「外から来られる方と、いかにいい関係性を作っていくかが重要」と話す。
そんな駒ヶ林のある長田区では、「下町芸術祭」と銘打ったアートフェスティバルが開かれていて、10年ほど前から、アーティストも多く移り住んで来ているのだそう。「古い街とアーティストの仲立ちをするのが自分の仕事」と、松原さんは精力的に活動。若い人が「路地の街が面白い」「ここで何かしたい」という気持ちを持ってくれる姿に、「若い世代にも通じるものがある」と気付かされたのだという。