サクサクの食感で素材本来のうまみが味わえるとして、多くの人に愛される「天ぷら」。肉や野菜、魚介など様々な具材との相性が良い。高価なイメージも伴うなか、兵庫県神戸市に、昼も夜も1万8千円の1コースのみで営業している専門店がある。3年前にオープンした「天ぷら料理 花歩(かほ)」(同市中央区)だ。料理長の真田篤史さんに、店のこだわりや、家庭でおいしい天ぷらを揚げるコツなどを聞いた。
真田さんは、22年の長きにわたって和食に携わり、その間にホテルオークラの副料理長を務めた経験もある。和食全般を手掛けていたが、独立にあたって、以前から魅了されていた天ぷらを選んだのだそう。
店に足を踏み入れると目を引くのが、コの字型の檜(ひのき)のカウンター。樹齢220年の一枚物を使ったこだわりの逸品で、その周囲には真っ赤なイスが並ぶ。
「お食事ももちろん大事ですが、食べる空間も重視しています」と真田さん。すべて、職人に手作業で作り上げてもらったのだという。来店客に調理の様子も楽しんでもらえるよう、調理場を見渡せる設えにした。店名の「花歩」は、カウンターを枝、周りに並ぶ赤いイスを花に見立て、ここで料理を通して四季を感じてもらおうと考えたものだそう。
コース料理には「花」と名が付いている。旬の魚や野菜を生かした天ぷらをメインに、椀盛、焼き物、デザートなど全15品。真田さんは「そのときに一番おいしい食材だけを食べてもらいたい。『これにすべてをかける』という思いで1コースだけにした」と語る。さらには、食品ロスを最小限に抑えられるメリットもあるという。
これほどまで料理に力を入れる真田さん。やはり幼い頃から料理を作ることが好きだったそう。初めて作ったのは揚げだし豆腐で、「家族においしいと言ってもらえるのがうれしかった」と振り返る。そこから料理の世界にのめり込んでいったようだ。
現在は朝5時に店に行き、時間をかけて昆布からだしをとっていく。揚げたての天ぷらを提供するにあたっては、それぞれのネタに合った塩を、はけで丁寧にまぶしていく。はけを使うのは、塩をつけすぎて素材の味が損なわれるのを防ぐ工夫だ。