眼前に広がるのは、のどかな田園、雄大に鎮座する六甲山系……。都心・三宮から車で約30分、心なごむ「日本の原風景」に触れられるのが、兵庫県神戸市北区の淡河町(おうごちょう)です。港町のイメージが強い神戸にあって、緑に恵まれ、谷あいの川沿いで農業が発展してきた地域です。
そんな、豊かな自然に抱かれた淡河町に、遠方・近隣かかわらず訪れるお客で行列のできる店があります。ベーグル専門店『はなとね』です。
「店」といってもその姿は、茅葺き屋根が印象的な築260年以上の古民家・前田家住宅。なんと、神戸市の指定有形文化財でもあります。じつは、北区には今も約700棟の茅葺き民家があるのだそう。
縁側、畳に扇風機。今の季節に訪れたなら「昭和の夏休み気分」が味わえるノスタルジックな古民家は、販売・飲食・工房という3つの空間が併設されています。そして、店長・村上さんの住まいでもあります。
村上さんは、どのようないきさつがあってここで生活し、ベーグルの製造・販売店を営むことになったのでしょうか? 詳しく聞きました。
――淡河町で店舗を構えようと思ったきっかけは?
当初、淡河とは全く違う場所で工房だけを借り、通販中心の事業展開を考えていたんです。ただ、里山での暮らしにも興味があって。そんな都合のいい物件あるのかな……って探していたら、この茅葺き民家に出会いました。見つけた時は「千載一遇のチャンスだ!」と思いましたね。ここに住むのなら、通販だけじゃなく実店舗としても頑張ってみようと。
――実際に里山暮らしをする中で驚いたことはありますか?
猪が出たり、マムシが出たり……。野生動物との遭遇率の高さには驚きました。ご近所さんに聞くと「そんなの当たり前やで!」と言われて。「ここってホンマに神戸なのか〜?」と、色んな意味でカルチャーショックを受けました(笑)。
――独立することになったきっかけを教えてください
いろいろなジャンルの飲食業態で勉強させてもらって、ベーカリーはそのひとつでした。そこでパン作りの魅力にハマって4年間修行し、独立を決心したんです。ただ、どんなパンを作ったらいいのか、どのように思いを発信していきたいのか、自分自身のことなのにすごく悩みました。