【橋本】 日本風になったというのがすごくわかりますね。
【中将】 でも結果的にこの曲は150万枚を売り上げ、日本レコード大賞を受賞する大ヒットになります。グループサウンズが全世代に認知されるきっかけになりますが、同時に音楽性の歌謡曲化を招いてしまうんですね。
【橋本】 井上さんの音楽的なチャレンジがグループサウンズ全体を変えてしまったんですね……!
【中将】 はい。各レコード会社もグループサウンズの売れる方程式ができたのか、より若いバンドを集めて作家が作った楽曲を歌わせる方針をとるようになります。グループサウンズがアイドル化していくんですね。その代表格が、沢田研二さんがボーカルを務めたザ・タイガースです。1968年1月にリリースした「君だけに愛を」なんて、バンドサウンドではあるんだけど内容は王子様的な激甘ラブソングですし。
【橋本】 「勝手にしやがれ」(1977)とかソロになってからの歌い方とは全然違うんですね!
【中将】 まだデビューして間もない頃だし、甘い声だけどけっしてお上手ではないですよね。でも沢田さんらタイガースの出現(※1967年2月デビュー)はグループサウンズに大きな変革をもたらします。それはビジュアルのフェミニン化。それまでのグループサウンズにも長髪の人もいたけど、スーツが主流であくまで男らしいいでたちだったんですね。ところが沢田さんが人気を博してからはみんな事務所の方針で可愛い中世ヨーロッパの王子様的なビジュアルになっていっちゃう。
音楽もファッションもレコード会社や事務所が主導するようになって、ミュージシャンには不満を抱く人も少なくなかったようです。でもそんな中でも強烈な個性を発揮するグループサウンズは存在しました。1967年6月に「好きさ好きさ好きさ」でデビューしたザ・カーナビーツなんてその代表格ですね。
【橋本】 「おまえのすべてを~♪」ってちょっと癖になる曲ですね……。映像もチェックしましたが、ボーカルの方がドラムを叩きながら歌っているのは衝撃的でした。
【中将】 ドラムボーカルのアイ高野さんのことですね。デビュー前からドラムとハイトーンボイスをあやつる天才少年として評判で、わずか16歳でデビューしています。このスタイルは1980年代のC-C-Bにも受け継がれてますね。
「好きさ好きさ好きさ」はイギリスの人気バンド、ゾンビーズの「I Love You」の邦訳カバーなので、自然でほどよいロックっぽさを感じますが、日本人の作家が作った歌謡曲風の曲を必死でロック風にアレンジするバンドも存在しました。ザ・ゴールデンカップスが1967年11月にリリースした「銀色のグラス」を聴いてください。
【橋本】 めちゃくちゃ抵抗してますね(笑)。どんだけ嫌やってん……みたいな。
【中将】 後付け感バリバリのロックなイントロと言い、高速ベースと言い、ドラムの激しさと言い……(笑)。かなり狂ったテイストですが、もともと演奏力のあるバンドなので時代が生んだカオスな名曲として評価されています。