海外で生産するメリットも十分理解をしています。昔ほどに品質の差があったり、海外のモノが全く使えないなんてことはありません。ただ、やはり日本のモノづくりの品質は高いと思っています。それに、日本の感覚やセンスで作られる美しいクリエイティブはあると思います。また、大量生産にはない、国内の多品種小ロット生産は、その時に応じたタイムリーな生産ができることから、時代に即したモノづくりもできるのではないかと思っています。僕は日本の方にはやはり日本のものを好きになってほしいと思っていますし、「地産地消」という言葉があるように、「国産国消」という言葉があってもいいと思っています。
――コロナ禍における業界全体の打撃について、教えてください。
予定されていた発注の見送り。次回生産の未定が何カ月も続いた。消費も落ち込んで売り上げも激減。じわじわと高騰していた材料の仕入れ値もここ近年では爆増。エネルギーコストも上がっていく中、それでもなかなか上がらない納品単価。同業の一部では、仕事欲しさに赤字でも価格で下をくぐってくる血の争いすら起きている状況。仕事が途切れて工場が止まることの恐怖を知っているからこそ、間違っているのはわかっていても、気持ちはわかる。生き残る道がどんどん狭くなっていたのではないかと思います。
私たちも受注減やコスト上昇による売り上げの低迷で、崖っぷちに立たされていました。それでも「私の代で潰すから」と母から言われた縫製工場を何とかしたいと、あとを継ぐ決意をしました。子どもたちには背負わせたくないという親心もあったと思いますが、戦ってきた母親の姿をみてきたからこそ、その想いごと継ぎたいと思ったんです。そこで作ったのが自社ブランドです。小さな町工場のボロボロの事務所で「せっかくブランドを作るんだったら、いつか総理大臣に結んでもらえるような子に育てたいよね」と話したことを覚えています。何度も諦めようと思ったし、苦しいし悔しいこともありました。今回閉鎖された工場の職人Sさんにも相談したり、さまざまさなサポートを受けて言った中で、ご縁をいただき、総理大臣にネクタイを結んでもらうことができました。
諦めなければ夢が叶うわけではないかもしれませんが、諦めなかった人だけが夢を叶えるんだと思います。キレイごとは抜きにして、こうした現状を現場の力だけでは変えられないと思っています。これは諦めて投げ出しているわけではなく、あくまで小さな力では大きな岩は動かないという話です。だからこそ、こうしてTwitterやブログを使って現場の状況を発信して、まず1人でも多くの方に知っていただくことをしています。
小さな力で岩は動かない。だから、まずはこういった現実があることを知っていただき、そして何かできそうなことがあれば是非お願いしたいのです。例えばSNSのいいね1つにしても、フォローにしてもそうです。もう、この生地屋さんは復活できないかもしれません。ただ、こうした発信が奇跡すらも起こす可能性は0ではないと、かすかな希望は抱いています。
こうした内容を発信すると、一定数「職人は機械にとって代わられる」「淘汰は資本主義だ」と言われるのですが、それは十分にわかっています。それでも、まだまだ機械に頼れない仕事が現場にはたくさんあります。機械に頼るようになる前に、人の手がなくなって実現できるものもできなくなるのです。そういった現実も踏まえて、1人の職人として、1人の社長として、発信をさせていただきました。
キセキは簡単に起きないことは重々わかっていますが、日々の発信を続けることで自分たちの存在を知ってもらい、失われていく技術に何か小さなキセキが起きればいいなと心から願っています。
株式会社笏本縫製
所在地:岡山県津山市桑下1333-6
ネクタイブランド『SHAKUNONE(笏の音)』:https://shakumoto.co.jp
笏本さんのTwitterアカウント(@shakunone):https://twitter.com/shakunone/
(取材・文=ししまる555)