ここで重要なのは、すべてを機械化したのではなく、鋳型作りや成形後の装飾も含めて、その多くの工程を熟練の職人による手仕事の技を必要としたところです。ゆえに、どの作品もじつにエレガントで、量産品とは思えないような高いクオリティーと崇高な美しさを放っています。
新しい時代に相応しい、最先端のスタイルをガラスで追求したラリックは、1925年、パリで開催された「現代装飾美術産業美術国際博覧会」(通称:アール・デコ博覧会)に専用のパビリオンを設置し、内外装にガラスを活用した光の空間を演出して、人々を驚かせました。それらは新しいガラスの可能性を示すものとして称賛され、ガラス工芸家としてのラリックは、まさに「アール・デコ」の新時代を切り開く象徴的な存在となっていきました。
斬新なデザインと高圧力を利用したプレス成形法により力強い立体感を示す花瓶《つむじ風》(1926年)は、まさにアール・デコを代表する作品の一つであり、その技術とデザインは、ラリック晩年の傑作と名高い花瓶《ナディカ》(1930年)にも活かされています。
その他にも初期の貴重な香水瓶の数々やアクセサリー、照明付きの大型常夜灯やテーブル・センターピース、テーブルウェアからカーマスコットという異色のアイテムまで、あらゆるラリックのガラス作品が一堂に会する貴重な機会となっています。
だんだん秋が深まってまいりました。丹波栗や山の芋など味覚の秋も楽しんでいただけます。丹波篠山の山々に囲まれた兵庫陶芸美術館で、ラリックのガラス作品を通じて、どこまでもエレガントなフランス装飾芸術の粋をゆったりとお楽しみいただき、心豊かなひとときをお過ごしいただければ幸いです。(兵庫陶芸美術館 学芸員・マルテル坂本牧子)
◆「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」
会場 兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4)
会期 2022年11月27日(日)まで
開館時間 10:00~18:00(入館は閉館時間の30分前まで)
休館 月曜日
観覧料 一般1200円、大学生900円、高校生以下無料
電話 079-597-3961(代表)、FAX 079-597-3967
HP https://www.mcart.jp