誰でも、どこでも、簡単に家庭菜園が始められる。そんな“未来型農業”を推進しようと、明石市の電子部品製造会社が異業種である農業の新規プロジェクトに取り組んでいる。
1955年に富士通明石工場の協力会社として創業した株式会社テクノシンセイは、おもにプリント基板事業を展開。電子機器の組み立てを中心に、さまざまなものづくりを行っている企業だ。
近年のコロナ禍、そして世界的な半導体不足といった厳しい状況のなかで主力事業以外の新たなビジネスを模索し、第一次産業の農業に着目。プロジェクト推進室の木村礼貴さんは「日本は食料自給率が約35パーセントと欧米と比較して著しく低い一方で、農業人口の減少などにより耕作放棄地は増加し続けている。そこで、初心者でも気軽に始められる水耕栽培システムを販売することにしました」と話す。
水耕栽培は“土のない床”でできることから、システムの名称は「家庭水耕菜園・土無い床(どないしょう)」。覚えやすく、なんともシャレの効いたユニークなネーミングだ。限られたスペースでも設置可能な栽培キットと、大きく成長する野菜などにも対応できる栽培ユニットがあり、どちらも植物を水に浮かせて育てる水流システムが用いられている。
明石市大久保のテクノシンセイ第3工場にはモデル農園が設置され、屋外・屋内で多種多様な植物が「土無い床」によって成長中だ。
システムの特性について、木村さんは「土を使わないので、草取り、水やり、追肥などの作業が不要で、水と肥料を科学的に管理できるのが大きな特徴です。野菜や果物、花など100種類以上の作物が栽培できるんですよ」と語る。
システム販売に取り組む一方で、水耕栽培による無農薬野菜「満点にんにく」の生産・販売にも力を入れている。にんにくの皮をひと粒ずつ丁寧に取り除き、水に浸して発芽させ、徹底した温度管理のもとで栽培。発芽させることで栄養価が高くなり、発芽していない通常のにんにくに比べて、カリウム、アルギニン、チロシン、カリウムなどが豊富に含まれるという。