「皆さんのご両親は阪神・淡路大震災から生き延びることができた。だからこそ、皆さんはこの世に『生』を受けている。では、今後起きるであろう南海トラフ巨大地震で、皆さんはどうなるのか、それはわからない」。
阪神・淡路大震災から28年、今年もめぐる「1.17」を前にした1月12日、早川英樹さん(フォックスブルー株式会社・代表取締役)が私立・仁川学院高校(兵庫県西宮市)講堂で耳を傾ける1年生に向けて問いかけると、大きな講堂内の空気が張り詰めた。
早川さんは阪神・淡路大震災発生時、神戸製鋼社員として神戸市内で被災。同社で復興推進本部のスタッフとして復旧・復興事業や災害対策事業に関わった。その後、半導体を扱う外資系企業へ転職する。ひとりのビジネスマンとして携わっていた半導体が、文部科学省が進める地震計内蔵型の緊急地震速報受信機の開発に採用されたのをきっかけに、再び地震対策や危機管理事業に関わることになった。
そして2009年に独立。神戸にオフィスを構えた。「地震や災害から生き残るためのノウハウ」を浸透させるべく、学校や高齢者介護施設、障がい者施設などの防災・危機管理コンサルタントとして奔走する。
後世に伝えるために、甚大な被害を受け、6434人の尊い命が失われたことを切々と語り掛けることも大切だ。しかし、今後起きる大災害に、どう対応すべきなのかを切々と訴えかけた。
「南海トラフ巨大地震は、今後30年以内に起きる確率が70~80%と高いから気をつけよう、ニュースで見聞きするから注意しておこう、その掛け声だけではダメなんです」。
■18人中、5人しか救えなかった
早川さんの知人男性はあの日、神戸市西区の自宅で被災し、暗闇の中、家を飛び出して、街を駆けずり回った。家屋の下敷きになった人たちを助け出しては、次の場所へ移っていく。気が付けば須磨区まで来ていた。ある所で火の手が上がった。人だかりができている。近くで崩れ落ちた家屋のすき間から手が見え、その手をつかみながら女性が叫んでいる。火は勢いを増してどんどん迫ってくる。危ない。この女性を何とか助け出さねばならない。
おそらく夫であろう、大切な人の手をにぎって離さない女性を引き離そうとすると、泣き叫びながら「私も一緒に死ぬ」。それでも男性は女性を抱きかかえて引き離した。女性はその場で泣き崩れ、ほどなくしてその家屋は焼け落ちた。男性は今でも「あの女性の声が聞こえてくる」という。