家を追われ、路上でぼう然とする人々…幼い頃に経験した阪神・淡路大震災の記憶は薄く、被災した街に投げ出された人々の姿は衝撃的だった。そこに厳しい寒さが襲う。 夜は氷点下7度まで下がる中、テントで寝泊まりした。寝袋は持って行ったが、それだけでは十分に暖を取ることはできず、隊員移動用のバスで夜を明かすこともあった。現地で借りた薪ストーブにも救われた。
これまで訓練を積み重ねてきた田中さんは、「さらなるスキルアップが必要だ」と感じたという。「日本を出発する時から、”生存者の救助をあきらめない”という目的を強く持っていた。そうでなければ、活動の意味がない」と話す。
トルコ・シリア地震での特徴として、「パンケーキクラッシュ」(※)という現象が指摘されている。生存できる空間の確保ができない状況で、日本の救助隊が収容した遺体は6人(2月24日現在)。このうち田中さんが所属した10人のチームは2人の行方不明者を発見したが、2人とも息絶えていた。救えなかった悔しさがこみ上げる。
現地では大きな期待を寄せられた。感謝の言葉や、「一緒に手伝おうか」という温かい声が忘れられない。それだけに、「一刻も早く救助したい」との思いと、危険を伴う救助活動が思うように進まない現実とのはざまで、申し訳なさと歯がゆさが入り混じったという。
「人の役に立ちたい、助けたい」との思いで海上保安官になった田中さん。6日間の経験から学んだ救助技術は山のようにある。今後の救助活動に生かしたいし、伝えていかねければならないと思う。緻密に構成された救助マニュアルも、重要なのはわかっている。しかし第一線で染みついた“肌感覚”も大切だと実感した。そのうえで「現場に応じた自由な発想も、臨機応変な対応も必要」と訴える。そして被災したトルコの人々と接する中で「ひとりの人間として向き合わねばならない」と思ったという。
※地震の強い揺れで柱や壁が連鎖的に崩れ、各階の床が重なる様子がパンケーキに似ていることから名付けられた現象。複数のフロアが平たく押しつぶされ、すき間なく折り重なるため、建物内にいた人は逃げるスペースが確保できず、生存率が低くなる。