エリザベートは新たに仕事の面接で「ラジオ・フランス」というラジオ局へ行きます。夜、眠れないことが多く、深夜0時から朝4時まで放送している番組『夜の乗客』をよく聴いていました。番組宛てにラジオの仕事がしたい、と手紙を送り、アポイントが取れたのです。『夜の乗客』のパーソナリティ・ヴァンダがエリザベートを迎えます。
『夜の乗客』は心地よい音楽をかけながらパーソナリティがリスナーの話を聞く生放送です。ちょうどスタッフが一人辞めることから代わりを探しているということで、エリザベートは生放送でリスナーからかかってきた電話を受け付けて内容を判断し、スタジオにつなぐ仕事をすることになりました。
ある夜、番組の「君の名は?」というコーナーにタルラという18歳の少女がやってきました。このコーナーはリスナーの身の上話を聞く人気企画で、話したいリスナーはスタジオから見えないように仕切られた小部屋でパーソナリティと会話をします。タルラは親とのトラブルを抱えていて、家出したために寝る場所がありませんでした。
番組のあと、局のすぐ近くにいたタルラをエリザベートが見つけます。エリザベートは寒空のもとタルラを放っておけず、自分の家に連れて帰ります……。
主人公エリザベートを演じるのは、シャルロット・ゲンズブール。エリザベートの人生を左右する深夜ラジオのパーソナリティーは、エマニュエル・ベアール。監督はフランス・パリ生まれで、この映画が長編4作目となるミカエル・アースです。
今作が描くのは1980年代のパリです。1981年5月10日、「変革と希望」を掲げた社会党第一書記のミッテラン氏が大統領に選ばれ、革新政権が誕生しました。パリでは市民たちが抱き合い、カフェでは無料でシャンパンが配られて、夜が明けるまで街中が祝賀ムードに包まれていたそうです。『午前4時にパリの夜は明ける』はこの日の場面から始まり、およそ7年間の家族の物語です。
アース監督は、この時代の空気を表現するために工夫を凝らしました。デジタルカメラの解像度を下げて粒子を荒くしています。柔らかい映像になるよう撮影し、さらに当時のアーカイブ映像を盛り込んで物語に溶け込ませています。観客は当時のパリの街並みやカルチャーに触れ、タイムトリップした気分を味わいます。
全体を通してラジオの深夜番組がモチーフになっていて、ストーリーに出てくる番組『夜の乗客』は、フランスの公共ラジオ局「ラジオ・フランス」が実際に放送していた『夜の出来事』という番組がモデルです。
またオマージュとして、1984年に25歳で亡くなったフランスの女優パスカル・オジェが出演した映画を印象的に登場させています。息子マチアス、娘のジュディットとタルラが映画館で偶然見て感動する作品として1984年の『満月の夜』や1981年の『北の橋』の場面を盛り込み、彼女を偲んでいます。