【中将】 感慨のようなものはありますか?
【ミッキー】 自分の考えの正しさを証明できたという思いはあります。それと、僕が昔から思っているのは、時代が誰かに曲を書かせたり、媒体に乗せたりしているんじゃないかということ。あの頃は、たまたま僕たちが時代に選ばれた。誰かが何か大事なメッセージを持っていて、それを伝える役目に選ばれたのかなと思うんです。
【中将】 今、再流行してるような昭和歌謡も、やはりそれに近い要素を持っていた曲たちなのかもしれません。昭和の楽曲は今後もスタンダードとして残っていくと思われますか?
【ミッキー】 残るものは残るでしょうね。僕もこの間、「歓喜の歌」をカバーしたけど、何百年も昔に書かれたクラッシックが残っているくらいだし。
【中将】 そうですね。ようやく日本のポップス界にもスタンダードという概念が生まれているのかなと思います。その中にゴダイゴの曲も残っていくんでしょうね。
【ミッキー】 そうなればいいなと思いますね。我々の世代がお手本にしたのはビートルズだけど、時代を超えるという点で彼らはすごいと思う。「ロール・オーバー・ベートーヴェン」(1963)など、若い頃の演奏は当時聴いていて「なんて熱い音楽だ」と思ったよね。そういうものというのは永遠に残るような気がするな。
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【中将】 音楽のメディアミックスの先駆者となったミッキーさんならではのお話でした。
【橋本】 若者が作った音楽が時代を超えて若者に響くというのもすごく納得がいきました。
【中将】 さて、ここからはメディアミックスされる理由にもつながることですが、昭和歌謡の若者にウケる要素についてさらに考えていきたいと思います。それは、現代ポップスにくらべてわかりやすくキャッチーなこと、また歌手が圧倒的に華やかという視覚的要素も大きいと思います。ミッキーさんとのお話でも少し触れたけど、最近の楽曲が複雑で難しくなりすぎてしまったことへの反動なのかなと。
【橋本】 アイドルもグループアイドルばかり増えてしまって、ダンスや演出は注目されるけど個人にスポットが当たりにくい傾向がありますね。
【中将】 例えば沢田研二さんのようなタイプの歌手は、今ではいませんよね。「勝手にしやがれ」(1977)なんてイントロから歌メロ、振り付けにいたるまで全部キャッチーで、沢田さんひとりで画面を支配しちゃうもんね。これぐらいインパクトがあるから若い人にも新鮮に映るのかなと。
【橋本】 メロディーの覚えやすさも特徴ですよね。最近の曲だと1番と2番でメロディーが違ったり、Cメロがあったりして覚えるのが大変です。
【中将】 職業作家が商業性を最大限考慮して作っていたというのが現代との大きな違いでしょうね。沢田さんの全盛期はピンク・レディーが出てきた時期と被るけど、どちらも詞を書いていたのは阿久悠さん。広告代理店、放送作家出身だから、どうすれば大衆に注目されるかという視点がある。
ピンク・レディーと言えば「歌ってみた」「踊ってみた」文化の元祖みたいな存在。1970年代の子どもはピンク・レディーがテレビで「UFO」(1977)とか歌っていると、かじりつきで振り付けを覚えて、それを翌日、学校で踊ったわけです。
【橋本】 カッコいいわけじゃないけど、癖になるインパクトがありますよね。時代は違いますが、モーニング娘。の「LOVEマシーン」(1999)も、はじめはカッコいい振り付けだったけど、つんくさんの判断でわかりやすくキャッチーなものに変更したという話を聞いたことがあります。
【中将】 アーティストがやりたいものと大衆に支持されるものにはズレがあるということですね。昔の職業作家はそれがよくわかっていたんでしょう。
あと、声の魅力も昭和歌謡の大きな要素です。松田聖子さんと言えば1980年代を代表するアイドルですが「青い珊瑚礁」(1980)でもわかる通り、声がすごい。“伝説のスカウトマン”と呼ばれた上条英男さんが自著で「松田聖子の声は性的な声」とおっしゃっていましたが、最近のアイドルソングって、グループだったり、レコーディングで声にピッチ修正やエフェクトがききすぎるから声に個性を感じることがなくなりました。