寺や神社、日本家屋などのひさしからぶら下がる“鎖”のような建材をご存知ですか。名前は「鎖樋(くさりとい)」といいます。「見たことはあるけど、どんな役割があるかは知らない」という人もいるでしょう。今回は、富山県高岡市で金属製品の製造と販売を行う瀬尾製作所の瀬尾良輔さんに、鎖樋の役割や歴史について取材しました。
――まずは鎖樋の役割について教えていただけますか。
【瀬尾さん】 日本の住宅では、一般的に屋根に降った雨は横樋(よこどい)というもので受けて、それを縦樋(たてどい)で落として地面のほうに流しています。鎖樋は、その縦樋の役割を果たします。たいていはパイプで作られる縦樋ですが、鎖樋は、個々に連結した鎖状のものをつなげて水の流れを可視化することで、美しさを楽しむという観賞の役割も果たしています。
――雨水を観賞するという役割があったのですね! 鎖樋は最初から「見て楽しむこと」を想定して作られた商品なのでしょうか。
【瀬尾さん】 はい。おそらく観賞用から始まったと思います。文献はほとんど残っていないのですが、鎖樋の原型は「棕櫚縄(しゅろなわ)」という説があります。棕櫚縄は、水に強く耐久性も高い素材です。もともとは竹を縦半分に切って、それぞれ横樋、縦樋として使用していました。その後、縦樋となる竹の代わりに棕櫚縄を用い、水が伝う美しさを表現したことが、観賞の始まりになったのではと考えています。
――昔は竹や棕櫚縄を用いていたとのことですが、今一般の家庭で使われている鎖樋はどのような素材なのでしょうか。
【瀬尾さん】 一番使われているのは塩化ビニルなどのプラスチック類ですね。ほかにも、金属であれば水に強いガルバリウムやステンレス、銅などですね。鉄はすぐにさびてしまうので使えません。長い時間外にさらしても大丈夫なように、対候性の高い金属が使われます。
――なるほど。地域によって、鎖樋の利用率に差はありますか。
【瀬尾さん】 あると思います。雨量などにもよりますし、北海道などの寒冷地ではあまり使われないですね。凍ってしまうので。
――今は洋風建築の家も増えていると思うのですが、そういった住宅でも購入される方はいらっしゃいますか。
【瀬尾さん】 結構いますよ。日本だけでなく海外の人にも一定需要があります。現代の生活様式に合わせたさまざまなデザインがありますし......鎖樋ってどこか不思議な雰囲気を醸すんですよね。和の感覚をおしゃれに取り入れることができる力強いプロダクトだと思います。