「海の日」。海の恩恵に感謝するとともに、海洋国家日本の繁栄を願う海の日。かつて海の記念日だったのを1996年に「海の日」として国民の祝日とし、今年で28回目を迎える。
海の日を国民の祝日としているのは世界では日本だけで、国土を海に囲まれた海洋国・日本ならではの、海の資源から多くの恩恵を受けていることを感じてほしいとの願いが込められている。
海を通じて、過去の技術から未来につながるヒントを見出そうとしている男性がいる。日本海事史学会会員で、一般社団法人「港まちづくり協議会大阪」理事を務める高見昌弘さん(兵庫県伊丹市在住)。
高見さんは、『温故知新 歴史に学ぶ、まちづくり』をテーマに関西でボランティア活動を続けている。そして、「千石船(せんごくぶね)」と呼ばれた江戸時代の貨物船で、上方から江戸へ多くの生活物資を運んだ「菱垣廻船(ひがきかいせん)」を復刻させようと「菱垣廻船保存プロジェクト」を進めている。
2013年3月まで、大阪・南港の咲州(さきしま)に「なにわの海の時空館」という施設があった。入館者数の低迷で、2013(平成25)年3月に閉館した。2000(平成12)年、総工費176億もかけて建設された、海に浮かぶ建物は、シャルル・ド・ゴール空港の設計も手がけた建築家ポール・アンドリューの設計だが、活用方法も見いだせずに放置されたまま。ここに、 菱垣廻船「浪華丸」(全長約30メートル、帆柱の高さ約27メートル)が眠っている。
それから10年経った2023年4月、高見さんのグループが特別な許可を得て、「浪華丸」に会いにいった。その目的は何だったのか。
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大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま)で開催される大阪・関西万博は、まさに海に浮かぶEXPO。高見さんは、関西から世界へ、公式キャラクター「ミャクミャク」が、“わくわく”広がるような人類の未来予想図であってほしいと願う。
新型コロナウイルスの影響で制限をうけていたマリンレジャーのにぎわいも戻りつつある。しかし、レジャーだけではない。海の日にあたり、往年の海上輸送に温故知新の精神で意識を向けたかった。
江戸時代、千石船と呼ばれる菱垣廻船、樽廻船、北前船などの弁才船(べざいせん)が海上輸送を担っていた。その主な動力は、帆に受ける風だ。千石とは約150トン。大型トラック約15台分に相当する荷物を運ぶことができたことに、ただただ驚く。
特に大坂と江戸を行き来していた菱垣廻船。“出船千隻入船千隻”と言われた安治川の下流、大阪市港区の天保山沖から大量消費地である江戸に向けて様々な生活物資を運んでいた。中でも酒、醤油(しょうゆ)、酢など、発酵食品は今も変わらず、われわれの生活に欠かせない。