農業従事者の減少や後継者不足により作物を育てられなくなった休耕地が増えつつある。そんな農地を活用した循環型農業「アクアポニックス農法」に取り組んでいる企業がある。兵庫県西宮市の『鷲林寺アクアファーム』だ。
事業拡大を目指し、現在クラウドファンディングにも挑戦している代表・もりひろあきさんに話を聞いた。
アクアポニックス農法とは、農作物の栽培と魚の養殖を同時に行う農業システムのこと。魚を飼育する水槽装置の上に野菜の水耕栽培装置を設置し、2つの装置をポンプで繋いで水を循環させる。魚の排泄物を微生物が肥料分に分解し、それを栄養として吸収することで野菜が育つ仕組みだ。植物によって浄化された水が再び魚の水槽へと戻るため排水の必要がなく、一般的な栽培方法と比較して水の使用量を80パーセント以上も削減できるという。もりさんは「農薬や化学肥料を一切使わないため環境に負荷をかけず、天候にも左右されにくい。また、土作りや草刈りといった重労働がないので無理なく農業を続けられるというメリットもあります」と話す。
もりさんは3年前、妻の祖母が大切にしていた先祖代々の農地を受け継ぐことを決意。造園工の経験とライフワークとして楽しんでいたアクアリウムの技術を活かし、アクアポニックスを取り入れた『鷲林寺アクアファーム』を立ち上げた。野菜と魚を育む水には六甲山・甲山を流れる天然水を使用しており、当初は水質や栄養が安定せずバランスを保つのが難しいこともあったという。現在は生産ペースも安定し、ハーブ類や空心菜、ミニトマトなどを地域のイベントやマルシェ、レストランへ納品している。
アクアポニックス農法を広く知ってもらおうと農場の見学体験にも力を入れる。農業従事者はもちろん、一般の人もアクアポニックスの仕組みやメリットを実際に体験でき、質疑応答の時間も設けているという。未就学児を含む子どもたちの参加も歓迎しており「自然の循環や農業の仕組みに触れることで、環境保護や食の大切さを学んでもらえたら」ともりさん。
今後はファームをさらに拡大し、地域の農業を発展させていく観光農園にしたいとクラウドファンディングにも挑戦中。集まった支援金は、施設の建設費や見学体験者用の駐車場整備費などに充てる予定だ。リターンには、自慢のアクアポニックス野菜セットや農場見学・収穫体験などを用意しているという。もりさんは「将来はファームの一角にアクアポニックスで育てた野菜や魚を使った料理を提供する飲食店を開くなど、持続可能な農業システムの可能性と魅力を発信し続けていきたいと考えています」と夢を語った。