暦の上では冬が始まる「立冬」の11月8日、京都の冬の味覚「千枚漬」の漬け込みが本格化した。
創業121年・京漬物の老舗「大安(だいやす)」本店に併設された工房(京都市東山区)で、熟練職人による作業が報道関係者に公開された。
千枚漬は、直径20センチ、重さ約2キロの京野菜「聖護院(しょうごいん)かぶら」を使用。法被姿の職人たちは「シュッ、シュッ」という音を響かせながら、かんなで薄く2.6ミリに削り、次々と樽に敷き詰める。
大安の千枚漬は、塩で3日間漬け込む「下漬け」の後は、北海道産の昆布や秘伝の天然調味料で風味を付けてさらに2日間置く「上漬け」をする。
こうして伝統ある「漬け替え製法」を守り伝えている。冬の寒さでかぶらの甘みが増すため、京都特有の底冷えが始まる立冬前後に漬け込まれた千枚漬が、最も美味しいという。歳暮や迎春準備に向けた12月までが最盛期。シャキッとした食感と、なめらかな舌触りが特徴。
大安の大⻆安史・三代目社長は、ラジオ関西の取材に対し、「気温の高い日が続きましたが、さすがに立冬を迎え、京都は朝の冷え込みが急に厳しくなりましたね。今年は猛暑の影響で、かぶらが育たなかったんです。記憶をたどっても、こんなに厳しいシーズンはなかったです。産地も出始めは北海道の寒冷地、そして富山、最盛期に京都の丹波地方(京都府亀岡市)でと移り変わりますが、北海道で35度という、異常な天候は深刻でした」と振り返る。今シーズンの売り始めは2週間ほど前で、例年よりも約1か月遅くなったという。
「今では、気候も秋らしく気温も下がり、ようやく美味しいかぶらが獲れるようになりました。コロナ禍で季節感が薄らぎ、『季節のものを食す』という日本人のアイデンティティを大切にするためにも、冬の千枚漬を楽しんでいただければ」と話す。
コロナ禍で、贈答品の売り上げが伸びた。自慢の千枚漬を皆さんの食卓に届けようと、職人も心を込めて作っている。