そして大学生になり、阪神・淡路大震災を知らない学生たちが、震災を後世に伝えていこうと活動する姿を追った報道を目にした。その時、学生たちが「生まれてないから」を言い訳にせず神戸の街を知ろうとする姿を見て、神戸で生まれ育ち、社会人としてのスタートも神戸で、と思う曽田さんの心が動いた。
「毎年、震災の授業を学校で受けてきたはずなのに、自分の中に何も残っていない…」このはがゆさ。その頃、大学の「卒業制作」を考えていた時期でもあり、神戸の街を知るきっかけになるかもしれないと、震災をテーマにしたものづくりをしようと動き始めた。
まずは知ることからと、震災を経験した人々へのインタビューや図書館での文献探しなど、情報収集に奔走した。とにかく手探り。
家族を亡くした人や、神戸在住でも被災を免れた人の気持ち、故郷の神戸・阪神間の被害を遠く離れた場所から画面越しで見つめるしかなかった人など、様々な気持ちを抱えていた事実を知り、胸が痛んだ。
学校で受けていた震災に関する授業の内容よりも鮮明に心に残る。インタビューを重ねて行く中で、震災を知る大人と、知らない子どもを繋ぐきっかけになれるものは作れないかと考え、「仕掛け絵本」を作った。
この「仕掛け絵本」は、年齢問わず、本のストーリーの世界観に引き込まれるように仕上げた。一般的な絵本とは異なり、1ページごとに動きをつけ、子どもから大人まで、絵本の世界観により中に引き込まれるようにした。
「神戸で生まれる子どもたちへ、震災を少しでも身近に感じてもらいたい」との思いを込め、震災当時の神戸の風景からはじまり、灯りが少しずつ神戸の街を照らす様子を1冊にまとめた。
震災を知る大人と知らない子どもをつなぎ、「あの時どんなことがあったのだろうね」とコミュニケーションができるきっかけになってもらえたらと思っている。
曽田さんは絵本作りをきっかけに、神戸の街をより大切にしたい気持ちが強くなった。そして、いつの日か子どもたちと一緒に絵本を読み、神戸の街について話ができる日を待ち望んでいる。